2019年に商業捕鯨が再開され、今年で3年目を迎えた。山口県下関市は全国で唯一、沖合操業の基地となり、消費者には安価な鯨肉を味わえる期待感があった。しかし、操業を担う共同船舶(東京)の20年度の生産量は調査捕鯨時代から4割近く減り、卸値は上昇。消費拡大の取り組みも道半ばで、持続可能な捕鯨に向け、関係者の模索が続いている。(杉尾毅)
「商業捕鯨が再開されることで、お客さんには値下がりへの期待があった。これ以上の値上げはちょっと……」。下関市の鯨肉加工会社「東冷」の石川真平専務が渋い顔を見せた。
主力商品・鯨ベーコンの原料となる部位の卸値は、調査捕鯨の頃と比べて5%ほど値上がりしたにもかかわらず、価格を据え置いているからだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んだ売り上げの回復を図っている時期だけに、石川専務は安価な鯨肉の安定供給を望む。
一方、市内の鯨肉販売店「藤野商店」は、卸値を販売価格に反映させるという。藤野一宏専務は「それが商売の鉄則だ。会社を守らないといけない」と強調する。
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共同船舶によると、鯨肉の卸値は、需要や在庫の状況、捕鯨会社の経営戦略で決まる。共同船舶の鯨肉1キロ当たりの平均卸値は、値引き販売などの影響で昨年4~6月に711円だったが、今年7月には1203円と約5年前の水準までアップした。
国から補助金を受ける共同船舶は、国から「自立」を促され、採算性が求められている。債務超過の可能性があるなど経営状況が厳しい中、所英樹社長は「鯨肉の販売単価の回復が必要だ」と卸値の上昇に理解を求める。
現在、鯨肉の国内供給量は、約2500トンと調査捕鯨時代の半分程度にとどまっている。日本の沖合や沿岸における商業捕鯨の捕獲枠拡大が見通せない中、供給量を増やすには、輸入品がカギとなる。
日本より早く商業捕鯨を再開したアイスランドは現在、新型コロナウイルスの影響や採算性の問題で日本への輸出を停止している。
所社長は「(卸値の値上げには)国内の鯨肉市場維持に向け、アイスランドに輸出再開を働きかける目的もある」と明かす。
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鯨肉を扱う飲食店も苦境にある。
「新型コロナ対策で週末営業や入店制限を続けており、客足は減っている」。下関市豊前田町の鯨料理専門店「下関くじら館」の小島純子店長は嘆く。商業捕鯨再開を受け、国産鯨肉を使ったラーメンを考案するなどしていた。30日からは休業か営業時間短縮を求める県の要請に応じる予定だ。
こうした中、官民でつくる「市鯨肉消費拡大推進協議会」などは、昨年度から、鯨肉に不慣れな飲食店に扱い方を教える講習会を市内で開いている。77店が受講したほか、協議会の協賛店も県内で200を超えた。独自のスパイスで味付けした赤肉のフライなど新たなメニューも生まれ、提供されている。
鯨料理を家庭にも普及させようと、7月には、東冷の石川専務ら有志が「しものせき鯨食復活プロモーション」を設立。家庭向けの料理教室や、子ども食堂への鯨肉提供といったプランを構想している。
「市民が古里の鯨食文化に誇りを持ち、市外に発信する。そんな鯨のまちにするための活動を展開したい」。石川専務はそう意気込んでみせた。
◆商業捕鯨 =商売目的で鯨を捕ること。日本は1987年から南極海などで鯨の頭数などを調べる調査捕鯨を実施してきたが、2019年に国際捕鯨委員会(IWC)を脱退し、商業捕鯨を再開した。操業は日本の領海と排他的経済水域(EEZ)内に限っている。21年の捕獲枠は沖合、沿岸操業を合わせて前年と同じ計295頭。
共同船舶は、老朽化している捕鯨母船「日新丸」の後継船の建造業者を来年6月に入札で決定する計画だ。下関市は、市内での建造と母港化を一貫して求めている。
同社によると、後継船は全長110~120メートル、南極海まで航行し、70トン級の大型ナガスクジラを引き揚げる能力を持たせる。建造費約60億円は、自己資金で賄い、2024年3月の完成を予定している。
下関市の母港化が実現すれば、船の建造や修繕、入出港に要する費用など様々な波及効果が見込まれる。
所英樹社長は「選定には地元自治体の受け入れ支援も十分考慮したい。それ相応の支援は検討いただけると期待している」と話す。
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「値ごろな鯨肉」のアテ外れ…再開3年目の商業捕鯨、生産量は4割減 - 読売新聞
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