新潮社が発行する月刊文芸誌「新潮」が8月上旬に発売された9月号で通巻1400号の節目を迎えた。約100年前のスペイン風邪の流行時にすでに刊行されていた老舗雑誌らしく、記念特大号の表紙には〈パンデミックを二度体験した文芸誌の最新表現〉とのうたい文句が踊る。
同誌は日露戦争期の明治37(1904)年5月5日に創刊された。関東大震災直後と第二次大戦期の一時期を除いて発行を続け、三島由紀夫の「金閣寺」をはじめ文学史に残る名作も数多く送り出してきた。
一方で、今年に入ってからは新型コロナウイルス禍の中で創作者52人がつづったリレー形式の日記を載せた3月号と、劇作家の野田秀樹さんの長編戯曲「フェイクスピア」を掲載した7月号が文芸誌としては異例の増刷を記録するなど、時宜を得た誌面作りも支持されている。
9月号は約520ページで、表紙には登場する70人を超える作家の名が並んでいる。新しい連載小説や短編はもちろん、史上3番目の若さで芥川賞を受けた宇佐見りんさんと朝吹真理子さんの特別対談や、筒井康隆さんと蓮實重彦さんの往復書簡なども収められ、拾い上げる表現の幅は広い。コロナ禍を受けて〈わたしの「新しい生活様式」〉という共通テーマで書かれた記念エッセーも面白い。小説家の本質ともいえる精神的な「引きこもり」ぶりを考察してみたり、家に居ながらにして脳内に壮大な仮想空間が広がる様子を飄々(ひょうひょう)とつづっていたり…。作家の奔放な想像力が伝わる多彩な文章がそろう。
「現代の作家たちの文学的な想像力と多様性を記録する号にしたかった」。平成15年に編集長に就任し、19年目に入った矢野優編集長(56)は話す。「結果的にエッセーだけでなく小説にもパンデミックの状況が色濃く反映されることになった。現実が激しく流動し『私』というものが揺らぐ中で、文学がどんな形を取り得るかを誌面で表せたと思う。時代の空気をつかんで生み出される表現をこれからもすくい上げていきたい」
時代の空気つかむ 老舗文芸誌「新潮」1400号 - 産経ニュース
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