20代前半の女性が腹痛と下痢を訴えてクリニックを受診しました。前夜から症状が出始め、熱と吐き気もあるそうです。急性胃腸炎の症状ですが、何か思い当たるところがないか尋ねたところ、数日前に鶏肉と鶏レバーを刺し身で食べたと教えてくれました。
胃腸炎は1年を通してよく見る病気です。冬場はウイルス性のものが多く、気温や湿度が高くなるにつれ細菌性の胃腸炎が増えます。高温・多湿になると、細菌の繁殖速度が上がることが主な理由で、逆にノロウイルスなどは低温・乾燥で活発になります。
台所の中で最も細菌の多い場所はお肉の上、と言ってもいいほど生肉には細菌が数多く付着しています。調理の際に手や器具を介して広がるほか、レバーには内部まで細菌が入り込んでいることがわかっています。
胃腸炎を起こす細菌には腸管出血性大腸菌やサルモネラがありますが、特に鶏ではカンピロバクターに注意が必要です。少量を口にしただけでも胃腸炎を起こし、発熱、腹痛、下痢などが何日間か続き、その後自然に治ります。数週間してから、しびれや麻痺(まひ)を起こす「ギランバレー症候群」という病気になることもあります。
ほかの細菌やウイルス、寄生虫と同様に、カンピロバクターも十分に加熱すれば死滅させることができます。家庭で調理するときには肉の色が変わるまでしっかり加熱し、生肉に触れた手や調理器具からほかの食材や食器に菌などをうつさないように気をつけましょう。飲食店では鶏に限らず、肉の刺し身やたたき、生焼けなどは食べない方が無難でしょう。過去にはユッケやレバ刺しなどで死者も出ています。ジビエ(野生動物)の肉を生食するなどという話も聞きますが、体を害する危険がかなり大きいと言わざるを得ません。
人は太古の昔に火を手に入れ、さまざまな食品を加熱して食べるようになりました。それにより咀嚼(そしゃく)にかける時間は大幅に減り、消化吸収により得られるエネルギーも効率よく得られるようになりました。これが私たちの脳を大幅に進化させることに寄与したと考えられています。もちろんおなかを壊す確率もかなり違うはずです。珍しいものを食べてみたいという好奇心もわからないではないですが、危険性がわかっている現代にあって、進化した私たちはあえて生肉を食べなくてもよい気がします。
(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)
【健康カフェ】(231)肉の生食は避けること - 産経ニュース
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