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Wednesday, August 23, 2023

肉の代わりではなくなる? “きのこ由来肉”発売が「代替肉」の再定義に - ORICON NEWS

きのこ由来の「代替肉」を使ったハンバーグ(洋風) 写真提供/雪国まいたけ

きのこ由来の「代替肉」を使ったハンバーグ(洋風) 写真提供/雪国まいたけ

 地球環境に優しい食材として、世界で注目を集めている「代替肉」(だいたいにく)。だが一方で、「肉の味には及ばない」「価格が高い」「加工時に何が入っているか分からない」などネガティブなイメージが広がっているのも事実。そんななか、きのこの生産販売を手掛ける大手・雪国まいたけが、きのこを主原料とした「代替肉」の開発に成功。今年度中に製品化し、販売を目指すことを発表した。日本では、着実に規模は大きくなっているものの、食卓に広く浸透しているかといわれるとそうではない「代替肉」市場において、“きのこ由来”の新素材は、起爆剤になりえるのか? 「代替肉」の現状と未来を探った。

「代替肉」が注目される理由は、人々の健康志向とサステナブルな観点から

 その言葉から「畜産から加工された食肉の代わりになるもの」という意味を持つ「代替肉」。そもそも、どのようなもののことを言うのか? さまざまなとらえ方があるが、なかでも今注目を集めているのが、大豆などの植物性の原料を使った「植物由来」のもの。そして、動物の細胞を培養して作る「培養肉」と呼ばれるものだ。

 「培養肉」に関しては、既にある動物の肉の細胞を培養して作ることで、動物の犠牲を減らすことができ、生産効率の高さなどの利点もあり、現在日本を含め世界中のさまざまな企業が研究開発を行っている。アメリカやシンガポールなど一部で既に販売が承認されているが、世界的に広まるのはもう少し先とみられており、現在市場に流通している「代替肉」は、主に「植物由来」のものとなっている。

 ではなぜ今、「代替肉」が注目を集めているのか? それは、人々の健康志向により、動物性の肉ではなく「植物由来」の「代替肉」がヘルシーであること。そして、畜産によって排出される温室効果ガスの削減や人口増加による食糧危機の解消など、サステナブルの観点から、環境問題への意識の高まりによって、「植物由来」の「代替肉」を選ぶ人が、欧米を中心に増加。予測によれば、2030年までに「代替肉」の世界的な市場規模は食肉全体の10%にまで拡大するとまでいわれている。

これまでなぜきのこ由来の「代替肉」が全国流通しなかったのか?「きのこを生産できる企業が限られてくる」

きのこ由来の「代替肉」 写真提供/雪国まいたけ

きのこ由来の「代替肉」 写真提供/雪国まいたけ

 日本でも、2021年に政府が「代替肉」の推奨を発表し、さまざまな飲食店で「植物由来」(主に大豆)の「代替肉」メニューを提供。大手食肉加工メーカーが開発した商品などがスーパーなどに並び、ここ数年で、着実に市場規模を広げている。しかし、人々の生活や、食卓に浸透したかというとそうではなく、まだまだ“意識高い系”の人が食べるものというイメージがあるのも事実だろう。
 なぜ、人々の生活に浸透しないのか? その要因として考えられるのが、「肉の味には及ばない」「美味しくなさそう」というイメージがあること。その上で「価格差がない」「『代替肉』の方が高い」、そして「どういったものを加工しているのかよくわからないので不安」といった意見が挙げられる。
 そんななか、6月末に新潟県南魚沼郡に本拠を置くきのこ産業のパイオニア・雪国まいたけが、きのこを主原料とした「代替肉」の開発と、今年度内に製品化して全国で販売を目指すことを発表した。

「創業から41年、まいたけを中心に生のきのこを生産・販売してきましたが、きのこの持つ豊富なたんぱく質や食物繊維、低カロリー、低脂質といった高いポテンシャルを活かしてきのこの新しい価値を生み出すことはできないかと考えてきました。そんな中、大豆ミートが注目されていることを受け、代替肉にフォーカスして研究を進め、このたび、開発に成功しました」(雪国まいたけ 経営企画本部 岩谷俊一郎氏/以下同)

 きのこ由来の「代替肉」は、これまで国内でも開発され、一部地域で発売されてはいたが、全国規模の企業が手掛けるのは、今回初めて。出汁などにも使われるきのこの持つうまみ成分に着目されてきたが、これまでこの規模で商品が出てこなかったのには、理由があるという。

「原料となるきのこを全国流通できる規模で生産できる企業というと、ある程度限られてくるので、これまで出てこなかったのではないかなと思います。逆に、弊社の強みは、自社で原材料をゼロから作っていること。きのこは水分が85%以上ですが、弊社では南魚沼の自然の水と、木材を粉砕したおが粉など植物由来の原料から作られる培地を用いて生産しています。厳格な品質管理のもと、ゼロから生産したきのこを主原料としておりますので、お客様に安心安全をご提供できるものと自負しています」

大豆由来とは異なる味、食感に市場も期待「既に小売り、メーカーから問い合わせ多数」

 原材料を自社で生産し、さらに加工まで行う安全面を担保した同社が生産するきのこ由来の「代替肉」だが、その成功を大きく左右する要因となるのはやはり「味」だろう。「現在製品化に向けて開発中」という同社だが、試作品を何度も食べている岩谷氏によると、現在市場に数多く流通している大豆由来のものとは違うという。

「大豆ときのこでは、そもそも形状が違いますし、食べた時の食感、風味も違う。大豆ミートは、それがいいか悪いかは別ですが、大豆特有のにおいみたいなものがあるような気がします。現在開発中のきのこ由来のものは、きのこの繊維質が食感として出ていると思います。また、きのこは出汁にも使われるように旨味も持っており、これは大豆由来のものにはないものなので、生かしたいと考えています。現在開発中なので最終的にどうなるかはなんとも言えないですし、どちらがいいという話ではないのですが、きのこならではの素材の特徴は出ているものになると思います」

 新たに登場したこの新素材への期待感は大きく、同社には開発成功を発表した直後より、小売店やメーカーなどからの問い合わせが多数。発表翌日には同社の株価が大きく上がるなど、市場の期待も高まっている。また、きのこは生育に必要な水や土地が少なく済むため、よりサステナブルな食材であるとも言われており、栄養価も高いため、岩谷氏は「今後、国内だけでなく、海外からも引き合いがあると思っています」と胸を張る。

 また、人々の生活に浸透させていく上で重要な価格についても、「どのような商品をリリースしていくのかを含め、現時点では詳しい話はあまりできないのですが、多くの皆様が手にとって頂きやすい価格で、さまざまな製品を出していく予定です。全国規模できのこ由来の『代替肉』を食べていただく機会になるのでやはり最初が大事だと思いますので、そのあたりはよく考えていきたいと思います」と、第一人者としての自負を受け止めている。

「代替肉」の未来は「肉を再現したもの、健康と味のバランスがいいものなど、ニーズが多様化する」

 市場の期待も高く、今後大きなマーケットに拡大していくであろう、きのこ由来の「代替肉」。一方で、同社は開発をしながらも、発表の際、その名前についてさまざまな議論を行ったという。

「実は発表の際、『代替肉』という言葉を使うかどうか悩みました。『代替肉』というと、正直、従来品のイメージから、ネガティブなイメージを抱かれる方もいらっしゃいますし、何より、『代替肉』というカテゴリーでくくっていいものなのか。というのも、『代替肉』にはいろいろなニーズがあります。たとえば、肉と同じ食感、味、満足度を得たい人にとっては、どこまでいっても『代替肉』は代替で本物の肉にはなりません。一方で、肉の美味しさを追求するより、ヘルシーで環境にいいものを求める人は、味付けでトータル的に肉っぽい美味しい食べ物になっていればよいと考えます。さらに、今、ヨーロッパで動きが活発になっていますが、『代替肉』に肉の代わりではなく、植物由来の新しい食べ物という定義づけをして、価値を見出している人たちもいます。そんな中、我々は、動物性たんぱく質に替わる “代替たんぱく”からきのこ由来の新しい食べ物を作るという考えで開発に当たってきました。この商品で新しい定義づけができるといいなと考えています」

 海外では、代替肉は「フェイク(偽物の)ミート」、「オルタナティブ(代替の)ミート」「プラントベース(植物に由来する)ミート」と呼ばれているが、そもそも、「肉」を付けるから、見た目や風味を動物の肉に似せる必要が生じ、味や食感に不満が出てしまうのではないだろうか。

 代替肉は、もともと温室効果ガスによる地球の温暖化や人口増加による食糧危機の解消など、畜産業が原因となる問題解決のために誕生したという経緯はあるが、代替食品に力を入れているスウェーデン発祥のIKEAが植物性たんぱく質を使用したミートボールを「プランツボール」「ベジボール」として販売しているように、これからは“肉”をイメージする言葉は用いず、ヨーロッパで広がっているような「健康と環境に特化した新しい食品」というカテゴリーで、食の選択肢のひとつとして定着させたほうが、サステナブルな事業として発展するのかもしれない。

「今後は、肉を完璧に再現したようなものを欲する人、味と健康のバランスがとれたものを欲する人、植物性の素材そのものの味を欲する人など、多様化するニーズに応じて、『代替肉』市場は細分化していくと思います。そんな中、私たちは、きのこという可能性を秘めた自然の恵みで、食糧問題や健康寿命などに貢献していきたいと思っています」

取材・文/河上いつ子

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