空気清浄機のフィルターから新型コロナウイルスを検出する技術を山梨大学などの研究グループが開発した。病院内の10カ所に空気清浄機を置いて実験したところ、院内のウイルス汚染の濃淡を場所ごとに可視化することに成功した。病院や高齢者施設などでのクラスター発生防止への活用が期待できるという。
開発したのは、山梨大大学院国際流域環境研究センターの原本英司教授(45)と、東京都大田区の大田病院医局副院長で株式会社「雷神の風」代表取締役を務める細田悟さん(64)の医工連携の研究グループ。
細田さんの病院ではこれまで、クラスター(感染者集団)が発生したら、感染状況が落ち着くまで通常の医療を止めなければならず、経営が苦しくなる状況が続いてきた。そんな時、「無症状の患者が多く、知らないうちに感染が拡大する。院内の感染リスクを早期に把握する方法はないか」と考えた。
空間中の感染リスクを数値化する技術は一般化しておらず、模索が続くなかで、各部屋に置いている空気清浄機の集塵(しゅうじん)フィルターに着目した。「フィルターには空気中のウイルスが付着しているはず。洗浄した後の液を分析すれば、部屋ごとの濃度がわかるのでは」とひらめいた。
下水から新型コロナウイルス遺伝子を検出する「下水疫学調査」の専門家・原本教授に相談し、昨年から共同研究を始めた。4~6月上旬、大田病院内の10カ所に性能の違う2種類の空気清浄機を13台置き、2週間ごとにフィルターを取り換えた。
山梨大の研究室で、回収したフィルターの汚れを超音波洗浄機で落とし、その洗浄液を濃縮して下水疫学調査の手法で測定。その結果、約9割の洗浄液からコロナウイルス遺伝子が検出されたという。
最も多かったのはコロナ患者の部屋で、1日あたり1千個前後のコロナウイルス遺伝子が検出された。このほか、発熱外来や救急外来前、コロナ患者と同じ入院病室フロアからも、10~100個が検出され、濃淡が数値ではっきり出た。
原本教授はこれまで、県内の下水からオミクロン株を流行に先駆けて検出するなど、水中のコロナ調査で実績を上げてきた。「今回の実証実験で空間のコロナを定量的に検出できることがわかった。ウイルス量が多い空間に、重点的に換気やPCR検査などの感染防止対策をとることで、クラスターを未然に防ぐことが期待できる」と話す。
今後はさらにデータを集めて、濃度ごとの感染リスクや必要な換気の量などを調べる予定だ。
新型コロナの感染症法上の分類が5月に5類に変更され、細田さんは「新規感染者数の発表が全数把握から定点把握に切り替えられたことで、感染状況が見えにくくなっている。この技術の実用化と病院や介護施設への導入をめざしたい」と先を見据える。(米沢信義)
空気清浄機フィルターからコロナウイルス検出する技術を開発:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
Read More
No comments:
Post a Comment