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Thursday, May 25, 2023

【小林繁伝】移籍後あいさつで不穏な空気 脳裏に刻んだ禁句 虎番疾風録其の四(228) - 産経ニュース

談笑する阪神の掛布内野手と(右)と小林投手=昭和54年2月21日、高知・安芸市営球場

平成18年、53歳になった小林は東京スポーツ(東スポ)の評論家となった。6月から始まった自伝的連載『細腕波乱半生記』の中で、阪神に移籍した昭和54年当時をこう振り返っている。

『個人の力で戦うのが阪神なら、巨人は力を結集して組織で戦う。でもチーム内で「巨人は」とか「巨人なら」という言葉は絶対に口にするな―と相羽コーチから忠告された』

相羽欣厚コーチ(当時35歳)。中京商から37年に巨人入団。南海を経て49年オフに阪神移籍。50年現役引退、コーチに就任していた。

「巨人をひけらかすようなことを言ったら、総スカンを食らうぞ」

小林は肝に銘じた。

だがなぜ、相羽コーチはあえて小林にそうアドバイスしたのだろう。実は歓迎会が行われた2月10日、選手ミーティングで紹介された小林は、あいさつの中でこんな言葉を発していた。

「阪神には〝歴史〟はあるが〝伝統〟がない」

別に巨人と比較したわけではなかった。そのあとに「ぼくはみなさんと一緒にその伝統を作っていきたい」と続けた。だが、聞く方はそうは取らなかった。一瞬にして部屋の中には生え抜き選手たちの「何を!」という険しい空気が漂ったという。

後年、掛布はこう語った。

「いきなり、すごいことを言う人だなぁ―と驚いた。腹を立てた? それはない。考えてみればコバさんの言う通りだからね」

阪神の〝伝統〟といえば、毎年のように起こる「お家騒動」。51年にエース・江夏が南海にトレードされ、昨年(53年)は主砲・田淵が西武へ出された。「なぜ?」という気持ちは掛布にもあった。その後も江本、掛布、岡田、今岡、鳥谷…。主力選手や生え抜き選手を大切にしない阪神の〝伝統〟は今も続いている。掛布は続けた。

「もし、あのとき田淵さんがチームにいたら、コバさんはあんな発言はしなかったはず。あの言葉はボクに向けての言葉だったと思う」

小林の発言が掛布に向けられたものだったのかどうかは、今となっては分からない。だが、「新・主砲」になった23歳の掛布の「心」にはそう響いた。

「この人には負けない! そう誓ったよ」

67歳になった掛布は懐かしそうに笑った。(敬称略)

■小林繁伝229

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