環境負荷の低減や人口増加による食料危機を解決する手段として、培養肉の研究が世界的に加速している。2013年に世界初の培養ミンチ肉がつくられてから10年を迎え、研究開発は驚くべき発展を遂げていた。
【写真15枚】培養肉の研究最前線。3Dプリンターも活用して肉を形成する手法を開発中
培養肉とは、家畜の細胞を培養して作る肉のこと。工場での生産が可能になるので、食糧危機や家畜飼育による温暖化などを解決する切り札として期待されている。
培養肉に注目が集まったのは、2013年にマーストリヒト大学(オランダ)のマーク・ポスト教授が培養肉ハンバーガーの公開試食を実施したことがきっかけだ。1個約3000万円という価格が話題になった。それ以降、世界中で開発競争が激化。調査会社A.T.カーニーは、世界の培養肉市場は2040年に約65兆円に達し、食肉の35%が代替されると推計している。
近い将来、培養肉が食卓にのぼる日がやってくる。
和牛肉の細胞から“本物の肉”を作る
海外で培養肉として売られている製品は、実は大豆などが原料の「代替肉」に筋肉や脂肪とは異なる細胞を混ぜたものが多い。
「味にこだわりが強い日本人には、おいしくないと培養肉は受け入れられないと思います。私たちは、“本物の肉”を再現する研究をしています」
そう話すのは大阪大学の松崎典弥教授。和牛の細胞を培養して、3Dプリンターで筋肉と脂肪、血管の線維を作り、それらを束ねて肉を形成する手法を開発中だ。
「筋肉と脂肪、血管の比率を変えることで、霜降り肉でも赤身肉でも自由に作れます」
課題はやはりコストで、1.5cm幅の肉の作成におよそ10万円かかる。庶民の口に入るのはいつごろか。
「2025年の大阪万博では生産のプロセスを展示して試食ができるように準備しています。その5年後くらいにスーパーに並ぶと期待しています」
培養肉は大阪万博の“目玉”になるのかもしれない。
コストダウンが普及の“キモ”
東京大学(竹内昌治研究室)と日清食品HDは、厚みのある「培養ステーキ肉」の研究に取り組んでいる。昨年3月には研究者による試食を実施した。
「噛んでいく中でジューシーさがあり、肉の脂肪分や鉄分由来の味を除いた、あっさりとした旨味を感じました」(日清食品HD・古橋麻衣研究員)
食品として違和感のない食べ応えだったという。
大阪のダイバースファームは、懐石料理店「雲鶴」料理長の島村雅晴氏が、2020年に起業したベンチャーで、鴨と鶏の培養肉を開発している。「いずれはお店でも提供したいし、私たちの技術で養鶏農家さんにも生産してもらいたい」(島村氏)と夢を語る。
培養肉が高コストなのは、培養に必要な血清と成長因子(ともに動物から採取)が高額なためだが、ベンチャーのインテグリカルチャーは、独自技術でコストダウンを狙う。
「弊社のカルネットシステムは、動物の臓器を模した装置で血清代替物を作り、細胞を培養するシステム。これにより培養コストはおよそ千分の一になります」(同社・川島一公氏)
大量生産すれば、コストは劇的に下がるという
一方、日本ハムは2022年10月に、食品由来の成分で血清を代替する技術を開発したと発表した。低コスト化と安定供給が可能になるという。
海外では、イスラエルのステーキホルダー・フーズの技術がユニーク。3Dプリンターで筋肉と脂肪のバイオインクを射出するだけで肉を作成できる。米ブルーナル社は、スシローの運営会社と提携、マグロなど魚肉の培養肉を開発中。将来は、培養魚肉の寿司がレーンを回るに違いない。
取材・文/清水典之 撮影/杉原照夫
※週刊ポスト2023年3月10・17日号
培養肉の研究最前線「霜降りも赤身肉も自由に作れます」 低コスト化と安定供給への道 - au Webポータル
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