現在、進行中の「クリエイティブは、武器になる」の連載(詳しくは、こちらをご覧ください)と並行して、クリエイティブの新たな可能性を見いだし、育てていくために、「企業」として、「組織」として、いかに取り組んでいけばいいのかを探っていこう、という本連載。クリエイティブの現場を取り仕切る方々に、お話を伺っていきます。
「組織」と「クリエイティブ」。この相反するものを、真っ向対決させてみたい。規律や利益を重んじる組織(企業)、自由に個のアイデンティティを追求するクリエイティブ。二つの融合に、ブレークスルーのヒントがきっとあるはずだから。組織とは、経営戦略の要。その戦略に、クリエイティブというものをいかに組み込んでいくべきなのか。電通3CRプランニング局の津田MDに聞いた。
文責:ウェブ電通報編集部
津田大介(つだだいすけ)氏:上智大学法学部卒。電通に入社以来、和田光弘氏、三浦武彦氏に師事。2011年CDとなり、2021年より第3CRプランニング局 局長(MD)。局長としてのマネジメントのみならず、アサヒビールなどのECDに従事したり、クリエイティブマネタイズプロジェクトや、Discover New SmartWork(働き方改革のワンアクション)など全社施策にも携わる。釣りに料理にサイクリング、サザンの桑田佳祐さんのファンなど、多趣味でも知られる。フルマラソン(22回完走済)のゴール後に始まる、自称ラーメンマラソンでは1日10杯食べたことも。
理想的な組織とは、大学の「愛好会」や「サークル」のようなもの
いつものように「組織とは、いったい何でしょうか?」という質問からインタビューを始めさせてもらった。津田氏の第一声は、こうだ。「個の成長が、大地。その大地にできあがる集合体が、組織なのだと思います。体育会のように規律でしばりつけて厳しい訓練を課す、といったものではなく、個々人が好きなことで成長できて、同じ思いを共有できる、愛好会やサークルといった感じですかね」
同じ「好き」が集まり、同じ「空気」を感じて、何より楽しみながら。がモットーの津田氏。こちらは、マラソンサークル@福岡マラソン&京都マラソン(撮影は2019年)
組織と言われると、滅私奉公のような言葉が頭をよぎる。私(個)を捨てて、組織のために働く、というイメージだ。でもそれでは、組織にとっても持続的な成長は望めない、と津田氏は言う。「いつの間にか、組織を維持することが、目的になっちゃうんですよね。愛好会やサークルに、そんなことはない。これ、好きだな、という人間がたまたま集まった、というだけのこと。そこから価値が生まれるのだと思うんです」
ビジネスのスケールに、意味はない。そうしたものは、後からついてくる
組織というものを「愛好会」や「サークル」のようなものだ、と考えると、ビジネスのスケールそのものに意味はない、と津田氏は指摘する。「超一流の愛好会だから、年商何億円のサークルだから、参加しているなんて人はあまりいませんよね?好きだから集まった。みんなで楽しいことをやろうぜ!と同じ思いで、あれこれ企画した。好きなことをやっているだけなのに、いつの間にか大会で優勝した。みたいなこと。スケールとか業績などは、あくまで結果。後からついてくるものだと思うんです」
個々人の「好き」が実現するって、楽しいじゃないですか。仕事への意欲もわく。そう、津田氏はおおらかに笑う。「みんなで楽しみながら、楽しい企みを考えて、それを実践していたら、いつの間にかスケールが生まれていた。業績も伸びている。理想論と言われるかもしれませんが、理想を胸に日々活動しているだけで、大きな差になってくると思うんですよね」
カネもうけのため、だけの仕事はしない。でも、「タダ働き」では、意味がない
でも、と、ここでいつものように意地悪な質問をしてみた。「とはいえ、企業という組織はカネを稼ぐことを目的としているわけで、愛好会やサークルとはちがいますよね?要するに、そのクリエイティブで一体、いくら稼げるんだ?という。MD(局長)というお立場では、日々、そうした課題を会社やクライアントの方々から突き付けられていると思うのですが……」と。
津田氏の答えは、こうだ。「おっしゃるとおりです。僕はいま、クリエイティブのマネタイズプロジェクトも担当しています。その際に大切なことは、自身やチームの働きを、価値として『見える化』することだと思っています。頑張って、頑張って、企画した。チームみんなの力で、いいクリエイティブをつくり上げた。その価値を、たとえばフィーとしてクライアントに認めていただくことは、とても大事なことだと思うんです。僕らは決して、おカネのためだけに働いてはいない。でも、サービスで働いているわけでもないのですから」
「最高の寿司を食わせてくれ。ただし、カネは払わない」みたいな、コントのような場面が頭に浮かんだ。一言で言うなら「そこに、リスペクトはあるか?」ということだ。寿司屋の大将は、客をリスペクトする。だから、手間ひまを惜しまずに、最高の寿司を提供する。客も、そんな大将の仕事をリスペクトしているから、対価を払う。もちろん「今日は、お代はいただきません。お二人にとって大切な結婚記念日でしょう?」みたいなことだってある。そういうところに、ドラマが生まれるのではないか?津田氏の話を伺っていて、なんだか妄想がふくらんでしまった。
画面左から、貝印(バーチャルヒューマン)、佐賀県。
個人的「好き」がカタチになるダイナミズム。愛する地方の創成に尽力する熱量。若手の高いモチベーションが実現力となるクリエーティブを、津田氏は何より応援したいと言う。
「他者」のために、生きたい
筆者の妄想を知ってか知らずか、津田氏からこんなコメントがあった。「カトリック系の学校出身ということもあってか、僕の中では『Man for Others(他者のために生きろ)』という言葉が染みついているんです。社内の人や制作会社の方、もちろんクライアントも、すべて他者、です。個の力を発揮する、個の個性で他者や世の中を魅了する、というのはクリエイティブの仕事のダイナミズムですが、その一方で、個人の力には限界がある。『他者のために、自分にはなにができるんだろう?』と考えると、不思議なことに気持ちが楽になるし、アイデアもわいてくる。その結果として、相手に喜んでもらえたなら、こんなにうれしいことはないじゃないですか?ナレッジシェアといったことも、同じことだと思います。一人の知見や技術を、一人で隠し持っていても、なにも広がりませんから」
「局会は、局最大のコミュニケーションチャンス」と考える津田氏は、ナレッジシェアやHRシェア、局員の功績を紹介し褒賞するなど、多彩なコンテンツを含む局会に大幅刷新。局員一人一人が有機的につながり、モチベーションアップとなるよう、毎月実施し続けているという。
大事なことは、「お節介」と「相乗り感」
「そのために大事なことは……」と、津田氏は続ける。「お節介と、相乗り感だと思うんです」。お節介とは、めんどくさがらずに、他人のために何かをすること。相乗り感とは、誰かのアイデアに乗っかってみるということ。どちらも難しいことだ。こんなことをしたらお節介かな、と躊躇(ちゅうちょ)してしまったり、その逆で、ついつい相手を論破して自分の思い通りに動かしたくなってしまうのが人の性というものだから。
「そういえば、若い頃、先輩によく怒られましたよね。あの先輩の怒鳴り声も、お節介のひとつでしょうか?」という筆者の質問に、津田氏はこう答えた。「怒るというよりは、育成のために叱ってくれたんだと思いますね。人を叱る、というのはとても体力がいることだし、めんどくさいことですから。でも、それをあえてやる。僕らは同じ仕事に相乗りしている仲間だろ?という愛情があってこそなんだと」
インタビューの最後を、津田氏はこう締めくくった。「クリエイティブというのは、空気をつくる仕事なんだと思います。時代の空気をつくるみたいなおおげさなことではないし、空気“感”をつくるという曖昧なものでもない。日常、すぐ隣にいる人、初めてお会いする人と、なにか同じ空気を共有できた、という喜び。そうしたものが、メディアに乗っかって、多くのひとの心を動かしていく。それが、クリエイティブの本質だと思います」
【編集後記】
インタビューの最後の最後、津田氏にこんな質問をしてみた。「ネットやSNSなど、いわゆるニューメディアのコンテンツなどを見ていて思うことがあって、それは『ひとは結局、CMのようなことがやりたいんじゃないか?』という仮説なんです。彼女へのプロポーズでも、結婚披露宴でも、息子の運動会でもなんでもそうなのですが、どれもこれもCM的ではありませんか?」と。
津田氏の答えは、こうだ。「裏を返せば、日常生活がCMになっている、ということでしょうね。あらゆるコンテンツがそうだと思います。音楽でも、ダンスでもそう。あのときの、ああいう切ない気持ちを、こういうメロディにするかー。あの弾んだ気持ちを、こんなダンスにするかー。というあたりに、人は心を奪われる」
いまどきの言葉(では、もはやないかもしれないが)でいうなら「いいね」ということだ。メディアがどう進化しようが、クリエイティブの本質は変わらないのだ、と改めて思った。
空気をつくる、という仕事 | ウェブ電通報 - 電通報
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