数年前、ブッシュウォーキング(野山散策)をしている時に、首筋をマダニにかまれた。ウォーキング中はまったく気づかず、帰宅後に、首の右側の背中寄りのあたりがムズムズして掻こうと手をやったその時、カリっと何か豆のような硬い物体が指先に触れた。
慌てて家族に確認してもらうと、大きなダニが首についているという。もともとのサイズが大きいというよりは、私の血をさんざん吸って大きく膨れ上がっていたのだろう。おそらく、木の上から落ちてきたのだと思うが、あの時、髪を後ろでひとつに結んでいたことを激しく後悔した...
私の首についていたダニは、たんまりと血を吸って、この写真のように膨れ上がっていた...(Credit:Photosampler-iStock)
ダニにかまれると、ツツガムシ病や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)などのダニが媒介するさまざまな感染症が心配されるが、そうしたことは起こらなかった。しかし、それからしばらくして、それまではなかった食物アレルギーが突然現れた。
それは、肉に対するアレルギーだ。
ダニにかまれて肉アレルギー?と思うかもしれないが、実は近年、同様のアレルギーを発症する人が世界的に増えているという。
アレルギーになったことに気づくのが遅れ、呼吸困難で死にかけた人も...
私自身、マダニにかまれた後もしばらくの間(おそらく1年くらい)は、それまで通りに普通に肉を食べていて、最初はまったく気づかなかった。ところがある日、仕事中にランチとして提供されたビーフ・タコスを食べた数時間後、胃のあたりがムカムカしてきて嘔吐。それでもその時は、ビーフ・タコスに何か食中毒を起こすものが入っていたのだろう...と思っただけだった。
しかし、それから牛肉や豚肉を食べた後に、ほぼ必ずといっていいほど気分が悪くなり、吐き気を催すという症状が続き、これは何かおかしい?!と思い始めた。そして、いろいろ調べたところ、同じように突然肉アレルギーになったという人が、我が家の地区をはじめ、オーストラリア東部に大勢いることがわかったのだ。(参照)
なかには、単に嘔吐や発疹・蕁麻疹などがでるだけでなく、肉を食べた数時間後に呼吸困難に陥り、救急車で運ばれて一命をとりとめたという人までいた。
発症者の共通点は、マダニにかまれたこと。
さらにショッキングなことに、シドニー北部沿岸の我が家の地区は、マダニにかまれて肉アレルギーになる人が続出する世界的なホットスポットだった...。なんと、この地区だけで1,800以上の症例があるという。こうした特殊な事情から、世界で最初にダニ刺咬と肉アレルギーを関連付けたのは、我が家の地区のアレルギーを専門とする臨床医なのだそうだ。
とはいえ、マダニにかまれて肉アレルギーになる人は、我が家の地区を含むオーストラリア東部ばかりではない。日本でもじわじわと増えているようで注意喚起されているし、近年は米国でも増加傾向にあるというから、油断ならない。(参照)
すべての肉ではなく、四つ足動物の赤肉に反応
このアレルギーは、特定のダニ種の唾液に存在するα-galが咬傷中に注入されることで発症することから、「アルファガル症候群」と呼ばれる。場合によっては、アナフィラキシーを起こし、死に至る危険性もあるというから恐ろしい。
とはいえ、ダニにかまれて肉アレルギーになったとしても、すべての肉に反応するわけではない。
アレルギーを引き起こすのは、牛、豚、羊などの四つ足の哺乳類の獣肉がほとんどで、鶏や鴨などの二足の生き物の肉には反応しない、という特徴がある。つまり、反応するのは、『四つ足の哺乳類』の肉であるということ。
アルファガル症候群は、主に牛肉、豚肉、羊肉などの四つ足哺乳類の赤肉に反応、アレルギーを引き起こす。(Credit:dogayusufdokdok-iStock)
では、哺乳類ではあるが四つ足歩行ではないカンガルーはどうなのか?ワニは哺乳類ではないが四つ足だけど??・・・と、オーストラリアならではともいえる食材を考慮すると、いろいろと疑問も湧いてくる。肉アレルギーになってからは、まだこれらの肉を試したことはないけれど...(笑)
このアレルギーが厄介なのは、ナッツアレルギーなどのように、アレルギー物質を摂取したからといってすぐに反応がでるわけではないという点だ。ナッツアレルギーの場合は摂取後1時間以内の発症がほとんどだというが、アルファガル症候群の場合は、数時間後(2~6時間程度)と割と長いことから因果関係が特定しにくく、最初は何が原因なのか判断しにくい。そのため、(私もそうだったが)マダニにかまれたことがきっかけで、自分がアレルギー体質になってしまったことに気づくのが遅れてしまう人が多いそうだ。
また、実際はどうなのかわからないが、血液型A型とO型の人がこのアレルギーを発症する傾向が高いそうだ。これは、獣肉のタンパク質に含まれる糖鎖α-gal(ガラクトース アルファ1,3ガラクトース)に対する反応がほとんどであるため、血液型抗原としてガラクトースを有するB型とAB型の人は、アレルギー反応が起こりにくいらしい。(ちなみに、A型でダニにかまれまくっていても大丈夫な人もいるので、その人の体質次第なのかも..?)(参照)
とにかく、ダニにかまれないようにすることが一番。もし、かまれてしまった後に、肉を食べると気持ち悪くなる、痒みや発疹が出る...といった症状がでたら、アルファガル症候群かもしれない。ダニの発生は、夏の終わりから秋にかけてが最も多いというレポートもある。小さい生き物だと侮ることなかれ。これから秋に向かう日本をはじめとする北半球にお住まいの皆さんも、くれぐれもご注意を。〈了〉
ダニにかまれて肉アレルギーに!急増するアルファガル症候群 - Newsweekjapan
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