でもアメリカ・ロサンゼルスに留学していた20歳のころに、食に目覚めました。お世話になっていた方に現地の高級なおすし屋さんに連れて行ってもらったんです。その方に申し訳ない、セッティングしていただいたと思って握りを食べたら、ものすごくおいしく感じたんです。「え? いろいろ食べられる、私」と、自分でもビックリ。
それから食に興味が湧き、特に海外で食べたものの思い出がたくさんできました。
今でも忘れられないのが、イタリアのジェノバで食べたパスタ。ここは、バジルで作るジェノベーゼソースの本場です。宿の人に教えてもらった小さなレストランで食べたジェノベーゼのパスタがほんとうにおいしくて。
ごくシンプルにソースをあえただけです。でも、それを超えるジェノベーゼのパスタに出合ったことがないですね。ごく普通の“街の店”で店名も覚えてないんですけど、とにかくおいしかったんです。
これで、名物を食べる楽しみに目覚めました。サッカーの取材などで各国を訪れるたびに、その街の名物を食べています。
ドイツで食べたソーセージは、想像を超えたおいしさでした。また、ドイツでは5、6月のホワイトアスパラガスが名物です。街のあらゆる屋台で、すごく太いアスパラガスが安い値段で売っているんですよ。ゆでてオランデーズソースをかけただけのアスパラガスを、大きなお皿に盛り付けるのですが、メイン料理ぐらいの食べ応えがあります。あまりのおいしさに、この時期を狙ってドイツに行きたいほどです。
フランスに1カ月くらい滞在した時。時間がない時は、現地のコーディネーターの方がパン屋さんで買ってきたバゲットサンドを食べていたんです。コーディネーターさんは、デザートとしてエクレアも買って来てくれました。エクレアって日本でもあるじゃないですか。でもパリのは自分の知ってるものとは全然違っていて。毎日食べたいと思うくらいでした。
スウェーデンで食べたサーモンのオープンサンドも、別格。パンの上にスモークサーモンとクリームチーズが載っているだけ。サーモンはどこで食べてもおいしいじゃないですか。北欧だから特別ってことはないよね、と思いつつ一口食べて、なんでこんなにおいしいの、と。
各地の名物というのは、シンプルな料理が多いですね。それでもおいしいのは、旬の食材を使い、その土地の空気の中で食べるからかもしれません。
そう感じたのは、ポルトガルのワインを飲んだ時です。ヴィーノ・ヴェルデという白の微発泡ワイン。緑のワインといわれ、若いブドウで造るそうです。スーパーとかで売っている安いお酒ですが、魚介料理にピッタリ。よくポルトガルの料理は日本人の舌に合うといわれますが、ヴィーノ・ヴェルデがあると、余計においしくて。
私も番組のスタッフも皆買って帰ったんです。でも日本で飲むと同じ味がしないんですよ。ポルトガルの空気のもと、ポルトガルの食材を使った料理と一緒に飲むから、あんなにおいしいのでしょうね。
食に興味が湧いてから人生が豊かになりました。早くコロナが収束し、それぞれの街に根付いた名物を楽しめる日が来るといいですね。(聞き手・菊地武顕)
ひびの・まり 三重県生まれ。武蔵野女子大学短期大学部卒業後、アメリカに留学し、UCLAの語学学校を修了。1999年よりJリーグのリポーターを開始。以後、サッカーを中心に活動を続ける。女子ワールドカップでは5大会連続で日本担当のリポーター・インタビュアーとして帯同した。現在は、テレビやJリーグ公式映像のリポーターとして活動中。
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