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Thursday, December 2, 2021

「空気を読む」を逆手に取って社内のITリテラシー向上 Cygamesが実践した4つの工夫 - ITmedia

 個人情報などの重要なデータを守るために進化を続ける情報セキュリティ。一方、いくら技術が進歩しても、それを扱う人間の意識が低ければ漏えいのリスクは抑えられない。インシデントを防ぐため、研修などで従業員のリテラシー向上に努める企業も多い中、社内の“空気感”を変えることで、これに成功している企業がある。「ウマ娘 プリティーダービー」を手掛けるCygamesだ。

photo 津留大介さん

 「ある取り組みの結果『ソフトウェアをアップデートしてほしい』など(情報システム部からの)お願いの実施率や実行してもらえるスピードが上がった。従業員からのセキュリティに関する相談も増えた」

 Cygamesの津留大介さん(情報システム本部副本部長)は、空気感を変える取り組みの成果についてこう話す。同社が進めた取り組みとはどんなものなのか。ガートナー ジャパンのオンラインイベント「ガートナー IT IOCS コンファレンス」(12月1〜2日)で津留さんが解説した。

カギは「情報の継続発信」、見てもらうための4つの工夫

 Cygamesはリテラシーを高める空気作りのために、一定の頻度でセキュリティに関する情報を社内へ発信し続けている。社内のチャットツールやブログなど、さまざまな場所で啓蒙を行っている。ただし、考えなしに社員に情報を発信しているわけではなく、大きく分けて4つの工夫を心掛けているという。

一定の頻度で「ザイオンス効果」

 1つ目は、とにかく一定の頻度で発信を続けることだ。同じ人や情報に触れ続けることで、その対象に好印象を持ちやすくする「ザイオンス効果」を狙ったもので、伝える内容にこだわりすぎず、とにかく発信を継続することが重要という。ただし回数が多すぎると逆に見てもらえなくなるため、Cygamesでは週1回程度にとどめている。

伝え方を変えてマンネリ化を防ぐ

 2つ目は、伝える媒体を変え続けることで“マンネリ化”を防ぐことだ。定期的に情報を伝える都合上、内容や発信する方法が同じだとマンネリ化し、効果が薄くなる。チャットツールやブログだけでなく、勉強会や社内報などさまざまな媒体で発信することで、内容を見てもらえるようにしている。

禁止ばかりでネガティブな印象にしない

 3つ目は、内容を明るく前向きな印象にすることだ。セキュリティの話題では、どうしても禁止事項を伝える内容になりやすい。とはいえ、ただ禁止事項を伝えるだけだとネガティブなイメージが定着してしまい、内容を見てもらえなくなる。そこで「いつもご協力いただきありがとうございます」などのメッセージを添えることで、ポジティブな印象を持たせるよう工夫している。

担当者を明記する

 最後の工夫は、担当者の個人名を明記することだ。セキュリティに関する話題の場合、連絡先が「○○委員会」のような組織名だと、担当者が想像しにくく、従業員に恐怖感を持たれる可能性がある。担当者の部署や名前、顔写真を添付することで、有事の際に相談しやすくしているという。

「研修」「罰則強化」はなぜダメなのか

 親近感の持ちやすい内容を定期的に発信することで、従業員のリテラシーを高めているCygames。ただ、従業員の意識を向上するだけなら、研修の実施や罰則の強化など、他にも手はあるはずだ。そんな中、なぜ「雰囲気作り」でリテラシーを高めようと思ったのか。津留さんによれば、背景にはCygamesの企業文化があるという。

 Cygamesはゲーム企業である都合上、ITエンジニアやビジネスパーソンだけでなく、クリエイターも多い。ルールを強制的に守らせる、罰則を強化するといった手を打つと、クリエイターの創造性を損ねてしまったり、業務効率が悪くなったりする可能性があり、断念せざるを得なかったという。

 一方で、研修は一時的に効果があっても長期的な意識改善にはつながらなかったり、独自の監査を行っても従業員全体の意識向上にはつながらなかったりと、いずれも限定的な効果しか得られなかった。

リテラシーが高いチームでは“空気感”が共有されていた

 これを受けた津留さんは「企業文化に合わない施策は浸透しない」「受け入れる状況ができていなければ、研修などを実施しても一時的な効果しかない」と判断。これと並行して、社内でもリテラシーの高いチームにその理由をヒアリングしたところ、マネジャーなどキーパーソンのリテラシーが高く、チーム全体でトラブルを防ぐ空気感が共有されていることが分かった。

 そこで津留さんはヒアリングしたチームを見本に、まずは社内の空気感を変えることで、全体のリテラシーを底上げしようと判断。継続的な情報発信を実施するに至ったという。

photo 津留さんが空気感を変えようと考えた背景 (出典:Gartner 2021年12月)

 「空気とは暗黙の了解であり、日本人は空気を読む。『KY』(空気読めない)という言葉が流行るくらいその価値観は浸透しているため『よし、空気感を作ろう』と考えた」

「情報は意識の低いところから漏れる」

 地道な工夫で社内リテラシーの改善に成功したCygames。一連の取り組みについて、津留さんはこう振り返る。

 「個人情報は最もセキュリティ意識の低いところから漏れるため、意識の底上げが重要。(Cygamesの場合も)取り組みを続けていくと、あるとき急激に『(全体の)ITリテラシーが上がった』と感じられるタイミングがあった。他部署にも話を聞いてもらいやすくなるため、リテラシーが底上げできると、さらなる環境作りもしやすくなる」

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