中国・広東省の高級日本料理店。ヒノキの板の上に載せられた「和牛」ステーキを前に、中国人シェフは悪びれることもなくはっきり言った。
「すべて密輸されたものです」――。
カンボジアに輸出されたはずの和牛が中国に流れている…。そんな情報をもとに、日本のブランド牛の行方を追った。輸入したはずのカンボジアの会社の住所を訪れると、思いもよらぬ光景に出くわした。さらに、日本ではこの「闇ルート」に加担している業者もいるという。世界的に人気の和牛に、何が起きているのか。(テレビ朝日 和牛闇ルート取材班)
■霜降り肉「雪の花」 シェフは悪びれずに言った
中国・広東省、オフィス街にある高級鉄板焼き店。日本を感じさせる佇まいで招き猫や名だたる日本酒の瓶が飾られている。和服を着た女性店員が「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。店員の足元にちらりとのぞくのはスニーカー。
通されたカウンター席で東京・銀座などの高級店の2倍ほどの値段がする「和牛コース」を頼む。カウンターの向こうには白の割烹着を着た中国人のシェフが立つ。
先付の鯛の刺身に続き、オーストラリア産「WAGYU」が運ばれてきた。肉の色が少しくすんでいるように見えた。店主は言う。
「オーストラリア産の牛肉は、色見が赤い。日本の和牛はピンク色です。これを先に召し上がってから、比較してみましょう」
次に運ばれてきたのは、ヒノキの板の上に置かれた肉。鮮やかなピンクにサシが入っている。シェフは、霜降りのことを中国では「雪の花」と呼ぶと教えてくれた。実は、2001年に日本で牛海綿状脳症BSEが発生して以降、中国は和牛を輸入していない。当然、飲食店で出されるはずもない。
「この和牛は?」と尋ねた。
「すべて密輸されたものです」
シェフは悪びれもせず答えた。
「日本のどこのもの?」
「宮崎です。宮崎牛と松坂牛が一番多く密輸されている。神戸牛は、香港に少し入っているがほとんど分けてもらえない。中国人は日本に行って、和牛を食べて、みんな大好きですよ。」
一体どうやって手に入れるのだろうか。質問をつないだ。
「密輸の専門業者に連絡すると携帯に和牛ブロックの写真が送られてくるんです。問題がなければ代金を先に払う。返品はできない。最近は、広東省で取り締まりが厳しくて、密輸ルートの拠点が広西チワン族自治区に移ったとも聞いています。」
■5年連続で世界最大の「和牛」輸出先 カンボジアの闇
どこから和牛が中国に流入しているのか。ヒントになるのは、あるデータだ。
日本の貿易統計によると、2018年以降5年連続で日本の冷凍牛肉の輸出先世界1位はカンボジアだ。2022年は、およそ65億円分が輸出されている。
今年2月、男2人(中国籍の男A、日本人の男B)が、冷凍牛肉をカンボジア向けと偽って申告し、香港に不正輸出した疑いで神奈川県警に逮捕された。捜査関係者によると、不正輸出の総額は40億円にのぼり、既に時効となっている分を含めるとその額は更に増えるという。
本当にカンボジア経由中国行の「和牛闇ルート」があるのか。今回逮捕された男らが輸出の際に税関に提出していた書類に、荷物引受人としてカンボジアにある日系会社「X」の名前を記載していたことを突き止めた。我々は消えた和牛の手がかりを追って、カンボジアに向かった。
■店主「ここに来たのはあなたたちが3番目だ」
「X」があるとされる場所は、首都プノンペンの中心部からほど近い、市場の一角。車を降り、通りを歩く。「X」の場所はすぐに見つかった。 しかし、そこにあったのはTシャツなどを売る地元の日用品店だった。店主に尋ねた。
「ここは何のお店ですか?和牛を取り扱ったりしていますか?」
「自分はオーナーから借りて店を出しているだけだ。」
「ここにきたのは、あなたたちが3番目だ」
1週間ほど前に、2日続けて別々の人物が訪ねてきたという。そのうち1人は制服を着ていて当局の人物に見えたという。そして、この住所にあるという“中国の会社”を探しているようだったと話す。現地当局も何らかの捜査をしていた可能性がある。
我々はこのX社と関わりが深いカンボジア人の男性を見つけ出し、接触を図った。しかし返ってきた答えは、「この件はもう終わっています。これ以上話は無い。情報捜査は日本側とカンボジア側で終了です」と日本語のメッセージが届き、連絡は途絶えた。
■「全く関与していない」 1週間後、男は逮捕された
神奈川県警が手掛けた「和牛不正輸出事件」は今年5月、新たな展開を見せる。県警は、過去にさかのぼって「X社」を税関書類などに記載していたケースが他にないか、調べた。その過程で、“大阪在住の男C”が捜査線上に浮上したという。
この人物の存在は、我々も把握していた。
不正輸出に詳しい関係者への取材で、「大阪でやっている男」としてその名が度々登場していたからだ。Cは、かつて和牛の受精卵を不正に中国に輸出しようとしたとして有罪判決が下されている。我々は、Cの携帯電話の番号を入手し、接触を試みた。
「(2月に逮捕された)Bについて、面識はなかったですか?」
「もう5、6年は会ってない。」
「Bが逮捕されたことについてどう思いますか?」
「(逮捕容疑は)何の件なんかなぁと思って。正規で輸出していたと思うんですけど。カンボジアに。」
「今はCさんはどの辺をメインに(仕事を)やられているんですか?」
「今は国内販売だけです」
「海外には全く卸していない?」
「全く卸してないですね。たまにマカオが一件あったかな」
国内向けにしか和牛を卸していないと主張した。
だが、電話のおよそ1週間後、Cは逮捕された。Bも一緒に。およそ5200万円分の冷凍牛肉をカンボジア向けと偽って香港に不正輸出した関税法違反、家畜伝染病予防法違反の疑いだった。県警は、Cが肉を手配し、Bが船を手配していたとみている。
貿易統計上も大きな変化があった。当局による捜査着手後、前四半期と比べて4割以上もカンボジア向け冷凍牛肉の輸出量が減っていた。「みんな知っていたけど、見て見ぬふりをしてきた」カンボジアルート。業界で「不可能」ともされた警察の捜査の手が及んだ影響なのだろうか。
6月7日、BやCは“和牛”を不正輸出した疑いで再逮捕された。捜査関係者は「今回の舞台は北九州の“門司港”。まだ続くよ。」と意気込む。第三国を通した闇ルートのカラクリは更に解明されるのだろうか。
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