JR秋葉原駅で起こったあるトラブルが物議を醸している。今年1月、エスカレーターの右側を歩こうとした男性(61歳)が、真ん中に立っていた男性(80代)に「邪魔だ」と告げると、「歩いて降りるものではない」と反論され、口論に。右側を歩こうとした男性が暴行を加え、12月1日に逮捕されたのだ。
ネットでは「歩くなって言う方が現実的ではない」「急いでいる人からしたら右側空けてほしいと思う」「真ん中に立っている方が悪い」という声もあるが、実はエスカレーターで歩くのはNG。左右どちらかの手すりにつかまり、立ち止まって乗ることが、鉄道各社から呼びかけられている。
それにもかかわらず起こってしまった事件。背景にあるとされるのが同調圧力だ。主に東京では右側空け、大阪では左側空けと、エスカレーターを歩く人のために片側に立つという暗黙のルールがある。
法律はないのにできるだけ周りと同じように、そして自分だけ少数派にならないように――。同調圧力は何もエスカレーターの乗り方だけではない。コロナ禍で登場したマスク警察や、リモート会議では顔出しを求める風潮。さらに、年賀状をもらったら返さなければいけなかったり、結婚式のご祝儀はみんなで値段を合わせたりと、挙げればきりがない。
法よりも何よりも“空気”が支配する日本。苦しむ人も多い中で、どう向き合えばいいのか。26日の『ABEMA Prime』で議論した。
「世間学」の第一人者である佐藤直樹・九州工業大名誉教授は「山本七平さんが『「空気」の研究』という本を書いていて、“空気という大きな絶対権を持った妖怪”という言い方をしている。根拠がない謎ルールなのだが、その場で空気ができてしまうとみんな従わざるを得なくなる。問題は、我々が『他人に迷惑をかけるな』『人に迷惑をかけない人間になれ』と言われて育ってくること。“他人に迷惑をかけるのが世の中で一番悪いことだ”と刷り込まれる。東京でエスカレーターの右側に立つと他人の迷惑になり、空気に逆らってしまうととんでもないことになるということで、立てない空気が生まれる」と説明。
コミュニケーションの各国分布図を見ると、日本は空気を読む(ハイコンテクスト)文化が非常に強い国だ(出典:エドワード・ホール“Beyond Culuture”)。これに佐藤氏は「基本的に欧米は、法のルールで決める“社会”だ。ところが、日本には“世間”があって、その中にたくさんのルールがある。特にヨーロッパ人は言葉というものを信じている。一方、日本では『真意』と言うように、“言葉の裏にあるのは何か”をいつも考える。タテマエとホンネの、後者だ。それがローコンテクストとハイコンテクストの違いだと思う」との見解を示す。
デパートなどで「エスカレーターに2列2人ずつ乗ってください」とのアナウンスがあるにもかかわらず、従わない列を見かけることもある。「私は『共感過剰シンドローム』と言っていて、日本人はすごく共感能力高いが、これが過剰になっている。最初はわからなくても、場の空気は瞬時に判断できるという」。
では、メディアや政府が呼びかければ2列で並ぶようになるのか。佐藤氏は「ならないだろう。例えば、埼玉県が去年、エスカレーターでは立ち止まるようにする条例を作ったが、言うことを聞いていない人も多いようだ。条例というルールで定めたとしても、結局は“世間のルール”が優先される」との見方を示した。
一方で、同調圧力は必ずしもマイナスに働くものではないという。「殺人の発生率を見ると、おそらく日本は世界一安全で安心の国だ。日本は住みやすいと、海外から来た人はいつも言う。若い女性が1人で夜中に歩くのは海外の都市ではできないし、堂々と置いてある自動販売機も海外ならすぐに壊されてしまう」とした。
起業家でエンジェル投資家の成田修造氏は「日本はこだわり感情がない国だ。江戸時代にあれだけ鎖国していたのに、明治維新でいきなり洋服を着て、戦争で世界は日本の敵だと言っていたけれど、戦後は欧米文化を取り入れてどんちゃん騒ぎをする。コロコロと空気を変えうるが、一つの空気になると強いという特殊な民族だ」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
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法より“空気”が支配? エスカレーター“どっちに立つか”に代表される同調圧力 専門家「日本人は共感過剰」 | 国内 - ABEMA TIMES
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