行事は、夜のとばりが完全に降りる前から始まった。当日の平壌の日没時間は午後7時54分。おそらく、午後8時から行事が始まったようだ。天候は晴れで、気温は約30度、湿度は70%を超えていた。不快指数は「暑くて汗が出る」とされる80から85の間だったとみられる。
会場には、朝鮮戦争を経験したとみられるお年寄りが軍服姿で多数出席したほか、若い学生の姿も目立った。会場では、金正恩氏夫妻や幹部、お年寄りの一部だけが円卓に座り、シャンパンとみられる飲み物で乾杯した。円卓には飲み物も置かれていた。
ところが、一般の出席者は、お年寄りも学生も軍人も、狭い間隔で並べられた椅子に座ったままだった。映像を見る限り、誰ひとりとしてペットボトルや水筒を持っていなかった。金正恩氏の演説の合間に拍手を送ったり、記念公演の音楽に合わせて手拍子をしたりする一方、ハンカチで汗をぬぐう人もいなかった。
北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「(最高指導者が参加する)1号行事だからだ」と語る。金正恩氏のそばでは、護衛とみられるスーツ姿の男性たちが周囲を警戒していたが、そもそも1号行事には私物の持ち込みが一切許されない。
元幹部によれば、それでも2005年10月に中国の胡錦濤国家主席(当時)が訪朝した頃までは、参加者に1号行事の後に飲料水や弁当が支給されていた。元幹部は「今は、1号行事に参加できるだけで名誉なことだと考えろと教育している。飲食や会場までの往復の交通費などは全部、自分で解決しなければならない」と話す。
それにしても、猛暑が続く日々、北朝鮮の人はどうやって暑さをしのいでいるのだろうか。
7月27日の記念行事に出席した金正恩氏の妻、李雪主氏は白いノースリーブ姿だった。元幹部は「一昔前なら、女性のノースリーブは許されなかった。ノースリーブで街を歩けば、(風紀担当の)糾察隊(キュチャルデ)から注意された」と語る。李雪主氏は北朝鮮のファッションリーダーとしての役割も担っているのかもしれない。
また、7月27日の行事は日没後に行われた。北朝鮮指導部は今年2月の厳寒期にも夜間に軍事パレードをしており、花火などの演出効果を狙った結果だと思われる。ただ、結果的に暑さ対策にはなった。それでも、北朝鮮で市民が日没後、夕涼みを気軽に楽しめる習慣はない。
韓国では夏の暑い夜、家族連れで近くの川べりに出かけ、果物を食べたり、花火をしたりしながら涼を取る習慣がある。元幹部は「夜間に河川に近づく行為は不審者として摘発される可能性がある。個人で楽しむ花火もない」と話す。
夏になると北朝鮮の人々を悩ませるのが、風呂の問題だ。北朝鮮では地方を中心に、風呂がない住宅は珍しくない。風呂があっても、水の供給が滞ることはよくある。深刻な電力不足もあり、エアコンは平壌のごく限られた住宅だけにしかない。
このため、北朝鮮では公衆浴場があちこちにある。なかには、平壌市にある蒼光院(チャングァンウォン)のように「サウナと理髪、マッサージ、刺し身付きの食事で200~300ドル」(別の元幹部)という高級施設もあるが、大部分は、大衆向けの公衆浴場だ。経営の形態も、工場で働いた労働者が帰宅前に利用する風呂場を一般開放した施設、食堂が調理用に使うエネルギーや水を利用して経営する施設など、様々だという。
地方では、川で体を洗う人も多い。このため、地方の河川では、よく「沐浴禁止」の看板を見かけるという。公衆浴場に行くカネがなければ、井戸や川からくんできた水で簡単に体を拭くくらいしかできない。
夏場に苦労が多い北朝鮮市民だが、昔からの楽しみはアイスクリームとアイスキャンディーだという。アイスクリームは北朝鮮では数少ないお菓子の一つだ。普通のアイスが「エスキモー」、チョコレート味が「カカオ」と呼ばれる。
北朝鮮では乳製品や砂糖が絶対的に不足している。脱北者の1人は「外国人に提供するアイスクリーム以外、ほとんど氷を砕いて固めただけのような薄い味だ」と語る。
それでも、夏になるとアイスクリームやアイスキャンディーを売る露店が増える。水と甘味料に木の棒を突っ込んで凍らせただけのアイスを売り歩く人も多いという。
また、日本の「土用の丑」のように「三伏節」と呼ばれる7月から8月にかけての暑い時期に、甘肉(タンコギ)と呼ばれる犬の肉を好んで食べる。元幹部の1人は「そもそも、犬の肉は貴重なたんぱく源。鳥や豚を食べられない人が、韓国人がチキンを食べるように気軽に食べるもの。暑い日だけではなく、一般の人にとっては、冷麺やククス(うどん)のように気軽に食べるものだ」と語る。
朝鮮半島では「以熱治熱(イヨルチヨル)」といって、暑い夏に、熱いものを食べて暑気払いする習慣がある。朝鮮中央通信は7月26日、各地で甘肉料理の品評会が開かれたと伝えるなど、積極的に犬の肉の摂取を勧めている。元幹部は「西洋社会が犬肉文化を異端視するのは知っているが、それは食事に余裕のある人々の考え方だろ。朝鮮の人たちにそんな余裕はない」と語る。
一方、この元幹部は「朝鮮の夏はせいぜい1カ月。暑さ対策など問題ない。本当に生きるか死ぬかの大変な問題は寒さ対策だから」と語った。
夏が来ればアイスキャンディーと犬肉 北朝鮮も酷暑、人々はどう過ごしているのか:朝日新聞GLOBE+ - GLOBE+
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