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Sunday, August 21, 2022

製造業の新たな市場になるか、「培養肉」10の疑問 - ITpro

全3777文字

 「新たな食の選択肢」として、培養肉が注目されている。事業参入するのは大手食品メーカーだけではない。島津製作所や凸版印刷といった製造業の企業が、続々と培養肉での協業や開発に参画している。プラントを手掛ける日揮は2022年1月、培養肉の新会社を設立した。

 なぜ今、培養肉が製造業における「新たな事業展開先の選択肢」として関心を集めているのか。市場規模や、普及後の可能性とは。知っておきたい項目をまとめた。

Q1:そもそも「培養肉」って何?
Q2:世界での培養肉分野の動向は?
Q3:将来的な市場規模は?
Q4:培養肉はどうやって製造する?
Q5:培養肉は製造業とどう関わってくる?
Q6:培養肉で日本が強みのある分野は?
Q7:現状の製造コストはどれくらい?
Q8:日本での規制の状況は?
Q9:培養肉の普及後の姿はどうなっている?
Q10:培養肉は実際どんな味?

Q1 そもそも「培養肉」って何?

 培養肉とは、牛や豚といった動物の細胞を培養することで、本物の肉のような味と食感を再現する人工肉のこと。少量の細胞を特殊な機器を使って大量増殖させ、成形して製造する。動物由来の肉であるという点が、大豆を中心とした植物性原料からつくる「代替肉」との違いである。

東京大学と日清食品ホールディングスが開発した培養肉

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東京大学と日清食品ホールディングスが開発した培養肉

(写真:加藤 康)

 主な特徴は、(1)環境負荷が低い、(2)食肉の世界的需要が高まる中で安定供給できる、(3)家畜を生かしたまま細胞採取できる、(4)無菌培養のため長期間保管可能で食中毒を起こしにくい、(5)味や栄養、脂肪分などを自在に制御できる――という5点である。

 (1)環境負荷が低いのは、家畜の数を減らしても食肉の安定供給が可能になるからだ。培養肉は、家畜から採取した少量の細胞から製造できる。つまり、家畜の育成に必要な食糧や水、家畜のげっぷなどによるメタンガスを減らせる。こうした利点が環境問題に関心のある若年層を中心に注目を集めており、「新たな食の選択肢」としての市場が生まれつつある。

Q2 世界での培養肉分野の動向は?

 培養肉を使ったハンバーガーは2013年に初めて登場しており、培養肉分野は萌芽(ほうが)したばかりといえる。現状、欧米やイスラエル、シンガポールなどを中心に、培養肉関連の起業や事業参入、投資が進む。中でもSingapore Food Agency(SFA、シンガポール食品庁)は、培養肉の販売を2020年12月に世界に先駆けて承認した。他国では2022年8月時点でまだ培養肉の承認は下りていない。

 これらの国や地域が培養肉の普及を急ぐ理由の1つは、「食の安全保障」にある。将来、新興国の食糧需要の拡大や気候変動などで、食肉の安定供給が脅かされる可能性がある。例えばシンガポールは、こうした状況を打破するため、食料自給率を2030年までに3割に引き上げる目標を掲げる。食品の約9割を輸入に頼り、利用できる国内の土地も少ない中、食肉を製造できる手段として期待されているというわけだ。

Q3 将来的な市場規模は?

 現在は培養肉工場の稼働が始まっていない初期段階にある。今後市場がどのように拡大するかはいまだ不透明だ。

 国際コンサルティング企業の米A.T.Kearney(A.T.カーニー)の2020年の市場予測によれば、培養肉は2030年に食肉全体の10%を占め、1400億米ドル(1ドル=135円換算で約19兆円)の市場規模に拡大するという。2040年には同35%を占め、6300億米ドル(同約85兆円)市場に達すると予想している。ただ、この予測は培養肉関連の報道などで度々引用されてきたものの、「培養肉寄りの前向きな見方」(ある大手食品メーカーの開発担当者)という意見もある。

 市場調査を手掛ける米Allied Market Research(アライド・マーケット・リサーチ)は2021年、より控えめな見通しとして、2030年に27億8800万ドル(約3764億円)に達するという予測を示している。

Q4 培養肉はどうやって製造する?

 実際に培養肉を製造する流れはこうだ。まず、牛や豚、魚といった動物から種細胞を採取する。次に、細胞が成長しやすいようにつくられた人工的な環境である培地(培養液)で細胞を生育。バイオリアクターに移し、この細胞を大量に増殖させる。最後に3Dプリンターなどで3次元組織構築することで、本物の肉のような形や食感を再現する。

大量生産と立体形成(3次元組織構築)などで製造業のノウハウが必要とされている

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大量生産と立体形成(3次元組織構築)などで製造業のノウハウが必要とされている

(出所:日経クロステック)

 実は、この工程は再生医療分野で人間の人工臓器をつくる流れとほぼ同じ。そのため、培養肉工場で大量生産が可能になれば、人工臓器を低コストでつくれるようになると見込む培養肉研究者や企業も存在する。

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