北海道大学 電子科学研究所の太田裕道教授らと産業技術総合研究所 極限機能材料研究部門の鶴田彰宏主任研究員らの研究グループは、空気中・600℃で安定した性能を示す、実用的な熱電変換材料を発見しました。熱電変換は、工場や自動車から排出される廃熱を再資源化する技術として注目されています。実用化されたPbTeなどの金属カルコゲン化物熱電材料*1は、熱的・化学的に不安定であり、かつ毒性もあるため、大規模な応用に至っていません。PbTeなどと比較して、酸化物は、基本的には高温においても酸化しないことから、高温で使用可能な熱電材料として期待され、日本では30年ほど前から精力的に研究されてきました。これまでにいくつかの熱電変換性能指数ZT*2が高い酸化物熱電材料が提案されてきましたが、再現性が低いため、実用化されることはありませんでした。2020年、研究グループは、Ba1/3CoO2が室温において良好な性能指数ZT ~0.11を示すことを発見しました(https://www.hokudai.ac.jp/news/2020/11/post-747.html)。本研究では、Ba1/3CoO2の再現性ある高温熱電特性を明らかにするため、Ba1/3CoO2エピタキシャル薄膜*3の高温・空気中における安定性を調べ、この安定な温度範囲内における熱電特性を計測しました。その結果、Ba1/3CoO2が、空気中・600℃においてZT ~0.55を示すことを発見しました。高温・空気中で再現性良く高性能を示す実用的な熱電変換材料がついに実現したと言えます。
なお、本研究成果は、2022年7月12日(火)にACS Applied Materials & Interfaces誌(オープンアクセス)に掲載されました。Ba1/3CoO2の結晶構造(左)と熱電変換性能指数ZTの温度依存性(右)
熱電変換は、工場や自動車から排出される廃熱を再資源化する技術として注目されています。実用化されたPbTeなどの金属カルコゲン化物熱電材料は、熱的・化学的に不安定であり、かつ毒性もあるため、大規模な応用に至っていません。PbTeなどと比較して、酸化物は、基本的には高温においても酸化しないことから、高温で使用可能な熱電材料として期待され、日本では30年ほど前から精力的に研究されてきました。熱電材料の変換性能は、性能指数ZT [= (熱電能)2×(導電率)×(絶対温度)÷(熱伝導率)]で表され、ZTが高いほど熱電変換効率は高くなります。つまり、(熱電能)2×(導電率)(これは出力因子と呼ばれます)が大きく、熱伝導率が低いほど性能が高くなります。実用化されたp型PbTeのZTは、300℃~600℃の温度範囲において、約0.7です。これまでにいくつかの酸化物がPbTeのZTを超える熱電材料になると提案されましたが、再現性がなく、実用化されることはありませんでした。こうした背景の中、2020年、研究グループは、Ba1/3CoO2が室温において良好な性能指数ZT ~0.11を示すことを発見しました(https://www.hokudai.ac.jp/news/2020/11/post-747.html)。本研究では、Ba1/3CoO2の再現性ある高温熱電特性を明らかにするため、Ba1/3CoO2エピタキシャル薄膜を作製し、室温における電気抵抗率が変化しない加熱温度範囲を調べ、その温度範囲内における熱電特性を計測しました。
研究グループは、まずNa3/4CoO2エピタキシャル薄膜を作製し、次いでイオン交換法によってNa3/4を重さが異なるCa1/3、Sr1/3、Ba1/3に置換したAxCoO2エピタキシャル薄膜(Ax = Ca1/3、Sr1/3、Ba1/3)を作製しました。その後、高温・空気中における加熱を行い、加熱後も電気抵抗率が変化しない温度範囲を調査し、その温度範囲における導電率、熱電能及び熱伝導率を計測しました。また、高温(600℃)、空気中における熱電能の連続測定も行いました。
作製したBa1/3CoO2エピタキシャル薄膜を空気中、室温から650℃まで、50℃刻みで昇温し、その温度で30分間加熱し、室温に戻した後の抵抗率の変化を調べたところ、600℃までは加熱前後の抵抗率が変化せず、安定であることが分かりました(図1)。つまり、Ba1/3CoO2が600℃までの温度範囲で熱電変換材料として使用できることが分かりました。次に、空気中、600℃までの熱電特性を計測しました。温度上昇に対して、出力因子は増加し、600℃では約1.2 mW m−1 K−2でした。一方、熱伝導率は温度上昇に対して減少し、600℃では約1.9 W m−1 K−1でした。その結果、性能指数ZTは温度上昇に対して増加し、600℃では約0.55に達しました(図2)。この値は、再現性のある酸化物のZTとしては最高値であり、実用化された熱電材料PbTeのZT(約0.7)に匹敵します。さらに、空気中、600℃に加熱したまま、2日間連続で熱電能を計測した結果(図3)、熱電能に変化は見られず、安定であることが分かりました。以上の結果から、高温・空気中で再現性良く高性能を示す実用的な熱電変換材料がついに実現したと言えます。
図1.層状コバルト酸化物AxCoO2(Ax = Na3/4、Ca1/3、Sr1/3、Ba1/3)の熱安定性。(左)作製直後のAxCoO2薄膜の室温における電気抵抗率。Ba1/3CoO2の抵抗率は、約0.85 mΩ cm。(右)空気中・室温から650℃まで、50℃刻みで昇温し、各温度で30分間加熱した後、室温で計測したAxCoO2薄膜の電気抵抗率の加熱温度依存性。Ba1/3CoO2薄膜の室温における電気抵抗率は空気中・600℃加熱後も変化しなかった。
図2. 層状コバルト酸化物AxCoO2(Ax = Na3/4、Ca1/3、Sr1/3、Ba1/3)の空気中における熱電特性の温度依存性。Ba1/3CoO2薄膜の出力因子は温度上昇に対して増加し、600℃では約1.2 mW m−1 K−2であった。一方、熱伝導率は温度上昇に対して減少し、600℃では約1.9 W m−1 K−1であった。その結果、性能指数ZTは温度上昇に対して増加し、600℃では約0.55に達した。
図3. Ba1/3CoO2薄膜の空気中、600℃における熱電能。(上)環境温度、(下)熱電能。Ba1/3CoO2薄膜の熱電能は、約2日間経過後においても130~140 μV K−1で安定している。
Ba1/3CoO2を実用化するためには、大型のバルク結晶が必要不可欠です。現在、大型単結晶の育成に向けた研究を行っており、同時にセラミックスの作製も進めています。今後は、企業との共同研究を行うことにより、実用化に向けた研究にも取り組みたいと考えています。
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業・新学術領域研究(研究領域提案型)「機能コアの材料科学」(領域代表:松永克志 名古屋大学・教授)における計画研究「界面制御による高機能薄膜材料創製(課題番号 19H05791)」及び基盤研究(A)「全固体熱トランジスタの創製(課題番号22H00253)」の助成を受けた成果です。
※本プレスリリースの図は、すべて原論文の図を引用・改変したものを使用しています。
論文名 Ba1/3CoO2: A thermoelectric oxide showing a reliable ZT of ~0.55 at 600℃ in air(Ba1/3CoO2: 空気中、600℃で信頼性あるZT ~0.55を示す熱電酸化物)
著者名 張 習1、張 雨橋1、呉 礼奥2、鶴田彰宏3、三上祐史3、ジョヘジュン1、太田裕道1(1北海道大学電子科学研究所、2北海道大学大学院情報科学院、3産業技術総合研究所中部センター)
雑誌名 ACS Applied Materials & Interfaces(米国・化学協会 材料科学の専門誌、IF = 10.383)
DOI 10.1021/acsami.2c08555
公表日 2022年7月12日(火)(オンライン)
産総研:高温・空気中で安定した性能を示す実用的な熱電変換材料を発見 - 産業技術総合研究所
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