日本人を対象とした最新の調査研究で、日本人のがんの約4割は、生活習慣の見直しや感染への対処によって予防が可能だということが分かってきた。特集第2回では、日本人のがんの原因となっている要因の中でも特に影響度が大きい「喫煙」「飲酒」「感染」のリスクと対策について解説した。今回は、残る3つの健康習慣「食事」「身体活動」「体格」について詳しく解説していく。
5つの健康習慣をすべて実践すれば、がんのリスクは4割減らせる
前回は、日本人のがんの原因となる割合の高い「喫煙」「飲酒」「感染」の3つについて、そのリスクと対策を解説した。国立がん研究センターをはじめとする研究グループでは、これら3つに「食事」「身体活動」「体格」を加えた6つの要素について、現時点で科学的根拠(エビデンス)が明らかになっている「日本人のためのがん予防法」を提示している。ここで改めて紹介しておこう。
図1 日本人のためのがん予防法
このうち、「感染」以外の5つの要素は日常生活に関わるものだ。国立がん研究センターがん対策研究所予防研究部部長の井上真奈美氏は「5つの健康習慣をすべて実践した場合、全く実践しないか1つだけ実践した場合に比べて、がんになるリスクが男性で43%、女性で37%低下すると推計されています」と話す。
今回は、残る3つの健康習慣「食事」「身体活動」「体格」について詳しく解説していく。
食事でまず取り組みたいのは「減塩」
「食事」と関連のあるがん(抜粋) |
- <食塩・高塩分食品>
- ほぼ確実 ↑ 胃がん
- <熱い飲食物>
- ほぼ確実 ↑ 食道がん
- <加工肉・赤肉>
- 可能性あり ↑ 大腸がん(女性)
- <野菜>
- ほぼ確実 ↓ 食道がん
- 可能性あり ↓ 胃がん
- <果物>
- ほぼ確実 ↓ 食道がん
- 可能性あり ↓ 胃がん、肺がん
- <大豆>
- 可能性あり ↓ 乳がん、前立腺がん
食事では、偏食をなくしていろいろな食材をバランスよく食べることを前提に、3つのポイント「食塩・塩蔵食品の摂取は最小限に」「野菜・果物不足にならない」「飲食物を熱い状態でとらない」が提示されている。「この中で特に大切なのは減塩です」と井上氏は指摘する。
国立がん研究センターがまとめた「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」では、食塩・塩蔵食品のとり過ぎは、胃がんのリスクを「ほぼ確実」に上げると評価されている。
例えば、日本人を対象としたある研究では、男性では食塩摂取量の多いグループで胃がんのリスクが高まることが確認されている。女性では特に関連は見られなかったものの、男女ともにいくら、塩辛といった塩分濃度の高い食品をとる人ほど、胃がんのリスクが高くなった(*1)。別の研究でも、漬物、塩魚、たらこなどの塩蔵食品は、がん全体と胃がんのリスクを上げることが示されている(*2)。
第2回でご紹介した「日本人におけるがんの原因の寄与度(日本人のがんのうち、特定の要因がなかった場合に予防できる割合)」でも、高塩分の食品摂取は感染、喫煙、飲酒に次ぐ、がんの原因となっている。
現在、日本人の健康な成人の1日あたりの食塩摂取量の目標は、男性は7.5g未満、女性は6.5g未満だ(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」)。一方、日本人の1日あたりの食塩摂取量の平均は、男性が10.9g、女性が9.3gと、目標値を3g程度上回っている(2019年「国民健康・栄養調査」)。
実は、WHO(世界保健機関)のガイドラインが示す食塩摂取量はさらに低く、1日5g未満だ。日本人の食塩摂取量はこの目標にはるかに及ばない現状にあるが、井上氏は「昔から塩の文化が根付いている日本では、初めからそこまでの減塩を目指すのはなかなか難しいと思います」と話す。「まずは現在の塩分摂取量より1gでも減らすことを目標にするといいでしょう」(井上氏)
そのためには、ラーメンやうどんといった麺類の汁は飲み干さない、塩分濃度の高い漬物や塩蔵食品の摂取量を控えるといった、基本的な減塩対策から実践したい。加工食品を購入するときは、栄養成分表示欄の食塩相当量を確認する習慣をつけるのもいいだろう。
*1 Tsugane S, et al. Br J Cancer. 2004;90(1):128-34.
*2 Takachi R, et al. Am J Clin Nutr. 2010 Feb;91(2):456-64.
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