温室効果ガスの排出量を2050年に実質ゼロにするカーボンニュートラルの波が、焼き肉店にも届いている。大豆などを使った代替肉のカルビを提供する店舗が登場。大きな塊や弾力のある歯応えは期待を裏切らない。食肉生産過程の温室効果ガス排出が問題となっており、環境意識の高い客層らの取り込みを狙う。健康面などでも代替肉市場は活発で、ベンチャーから大手まで、国内外の企業がしのぎを削っている。
焼き目がつき、香ばしい匂いが漂った。表面のてかりが食欲をそそる。口の中で筋肉のように弾む感触は肉と間違うほどだ。
カルビの代替肉を提供するのは、兵庫県の神戸と尼崎市を含めて全国展開する「焼肉ライク」(東京)。「10、20年後は焼き肉店でも代替肉が当たり前になる」と想定し、20年12月から全店舗で提供を開始。客から「肉が苦手な友だちと焼き肉に行けるようになった」といった感想を聞くという。
この代替肉を製造するのは、地球環境の改善を目指すベンチャー企業「ネクストミーツ」(東京)。主原料は大豆で100%植物性だ。代替肉の主流はミンチ状だが、同社はスライス状を主力に扱う。食感に大きく影響するという、タンパク質含有量を増やすことで、肉のかみ応えに近づけるなど改良を続けている。
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国連食糧農業機関(FAO)の分析では、牛などを育てる畜産業は全温室効果ガスの14・5%を占める。排せつ物から温室効果ガスの一種で、二酸化炭素(CO2)の300倍の温室効果がある一酸化二窒素や、CO2の25倍のメタンが放出される。
げっぷの存在も大きい。牛などの反すう動物は食べた物を胃から口に何度も戻してかみ、ゆっくり消化していくが、その際に発生するげっぷにメタンが含まれているからだ。こうしたメタンが畜産業から排出される温室効果ガスの3分の1程度を占める。
また、えさの穀物を育てるための農機や、その穀物を輸送する車両などからもCO2が排出される。
ネクストミーツ社は「元々ある健康目的の菜食志向などに脱炭素の流れが加わり、代替肉の開発は時代の要請となっている。一過性のブームではなく、代替肉を日常で当たり前の選択肢にして、食から環境負荷を減らすことに貢献したい」とする。
兵庫でも、伊藤ハム(西宮市)が大豆タンパクを利用した、スパイシーなジャーキータイプの商品を販売する。プロテインなどを販売するソライナ(神戸市)はひき肉ではなく、エンドウ豆由来の代替肉を使ったレトルトのキーマカレーを手掛けている。
代替肉以外にもネスレ日本(同市)は乳成分の代わりに、コメを使ったラテを販売している。(堀内達成)
■代替肉世界市場「10年で8倍」
代替肉の市場規模は大幅な拡大が予想される。市場調査・コンサルティングのシード・プランニング(東京)は、2030年の日本市場は780億円で、20年の2・2倍になると試算。世界市場では886億ドルで、20年の8倍とも見通す。
代替肉は脱炭素や健康、動物愛護のほか、将来の人口増に対応する側面もある。国連の19年の報告では、同年の77億人から30年に85億人、50年には97億人に増える見込みだ。食肉需要も急増するため、その需要を補う役割も期待される。
一方、畜産業界も脱炭素に着手している。農業・食品産業技術総合研究機構などは、牛のふん尿から排出される一酸化二窒素を減らすための餌を開発。栃木県の牧場で実証実験を行い、同じ牧場で試験的に「環境に配慮した肉」として販売し、問い合わせが相次いだ。
また同機構はげっぷによるメタン排出が少ない牛の改良にも取り組む。排出量の個体差がある程度遺伝するとみられており、胃の中の微生物をコントロールするなどして排出減を目指すという。
食肉生産の温室ガス削減へ 焼き肉店、代替肉で脱炭素 かみ応えそっくり、大豆由来「カルビ」 - 神戸新聞NEXT
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