北京冬季オリンピック第3日は6日、ノルディックスキー・ジャンプ男子個人ノーマルヒルが河北省張家口の国家ジャンプセンターであり、小林陵侑（25）＝土屋ホーム＝が金メダルを獲得した。日本の個人では1972年札幌五輪の笠谷幸生、98年長野五輪の船木和喜に続き3人目。
高さと推進力。ジャンプで空中に飛び出す際、選手たちが求めているものだが、一方を求めればもう一方にはマイナスになる。この矛盾した動きを両立できる小林陵が、日本勢で24年ぶりの五輪金メダルを射止めた。
まるで何かを確信していたかのようだ。本戦を前にした試技を、小林陵はただ一人、飛ばない選択をした。そして迎えた1回目。ジャンプに不利な追い風と有利な向かい風が入り交じる状況で、すっと風が収まった。勢いよく空中に飛び出した小林陵は104・5メートルの大ジャンプ。2回目も99・5メートルにまとめた。金メダルを射止めると、両手を大きく広げ、喜びを表現した。
所属先の監督として指導する葛西紀明は「僕は上半身が起きない低めのジャンプ。陵侑は全身を使ってカンテ（踏み切り台）にパワーを与える。なおかつスムーズで、飛び上がっている感じ。あれがすごい」と絶賛する。
高く飛び出そうとして体が起き上がると空気抵抗が増す。進むスピードを重視すると、飛行曲線が低くなる。全身で反動を付けると余計な抵抗が増すため、「脚だけで立つ」が一般的だ。それを小林陵は全身を使ってスムーズに高く飛び出す。飛び出した直後、ほとんどの選手は体が猫背気味になるが、小林陵は斜め上方向に伸びるように高く飛び出す。
その際、体と同様に空気抵抗を受けるスキー板を、進行方向と平行に近く保てるのが小林陵の“スゴ技”だ。空中姿勢を横から見ると、小林陵は体と板が離れている。板が空気とけんかしないため、推進力が失われない。
初出場した2018年平昌五輪の翌シーズンに日本男子初のワールドカップ（W杯）総合優勝を飾った。その後の2シーズンは総合3位と4位にもかかわらず、不調と言われるほど高いレベルにいる。
昨秋、小林陵に意識する点を聞くと「あまり力みすぎないこと。いくらカンテで力強く立っても変わらないなと思って」と話した。
W杯で総合2位につける今季は体の軽さも求めた。太もも、ウエスト回りは昨季より3センチほど細いといい、所属チームが導き出した現状のベストという。入江彩織トレーナーは小林陵の筋肉を「お餅みたい。指で押すと、一般の人はゴムを伸ばした時のように硬くなり、指を離すとパチンと戻るが、陵侑君はお餅がビヨーンと伸びて、ビヨーンと戻る感じ」と表現する。
ジャンプ選手には小林陵よりも負荷をかけたスクワットができる選手は多いが、しなやかさを生かして素直に飛ぶ小林陵の方が遠くにたどり着く。それが多くのトップ選手が「陵侑は上手」と表現する強さを示している。【江連能弘】
ジャンプ小林陵侑、空気は友達 葛西が絶賛する踏み切り技術で金 - 毎日新聞 - 毎日新聞
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