※日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成
ギャンブル好きで借金を抱える鈴木もぐらと、マザコンの水川かたまりのキャラクターで、ブレイク前からお笑い好きの間で浸透していた空気階段。近年のお笑い界の盛り上がりとともに、注目度が右肩上がりだったコンビの代表格だ。2021年はついに『キングオブコント2021』も制覇。大躍進を遂げた2人に21年の活動について話を聞いた。
――『有吉の壁』(日本テレビ系)や『ゴッドタン』(テレビ東京系)などへの出演と、レギュラーラジオ『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)が人気の基盤。21年は、2月に開催した単独ライブ『anna』の配信チケットが1万枚以上売れ、コロナ禍で進んだお笑い配信ライブでも存在感を示した。
そんな彼らが実力を発揮してきた場所が『キングオブコント』。3年連続で決勝に進出し、19年は9位、20年は3位という結果を残した。そして放送後に“史上最高回”との声が相次いだ21年10月開催の『キングオブコント2021』で、ついに優勝を果たした。
もぐら 『キングオブコント』で優勝した瞬間は、実感がないまま、夢みたいな気持ちでした。無意識のうちに脳内で“汁”だけ出ていました(笑)。今までパチンコで1万発、2万発当たったときにそんな感覚になったことがあったけど、賞金1000万円ですから。250万発の“汁”は経験したことがない。もちろんうれしかったけど、あの瞬間のことは言葉では言い表せないです。宇宙と一体になる、みたいな感じ。
かたまり 実感がなかったのは僕もそう。僕の場合は、大地と一体になった感覚というか(笑)。実際に優勝したらホッとしたのと同時に、今までに味わったことのないうれしさでした。
もぐら 決勝進出が決まったときの喜びは、パチンコ屋の整理番号で1番を引いた感じなんですね。「今日は好きな台に座れる、よし行くぞ!」っていう。やっぱり台に座らないと勝負はできないですから。優勝したときは「1000万獲得したぞ」っていう喜びなんで、やっぱり全然違いますよね。
かたまり 19年から3年連続で決勝に臨んできましたが、今回何かを変えたということはないんです。対策としては、ネタをライブでかけまくって、本番で1番いい状態のものをやるというだけ。19年も20年も、自分たちのなかでは最高のものを出したつもりではあったんですけど。
もぐら 毎年、その年に出来たネタの中で自信のあるものを2本選んで、それをライブでとにかくやるということをしてきたので、やり方は一緒なんです。
かたまり 今回の2本は8月の半ばに決まって、それ以降のライブで調整してきて。たぶん1本目の「火事」のネタは、3月か4月に出来ていたんで、30~40回はお客さんの前でやったと思います。2本目の「メガトンパンチマンカフェ」は単独ライブでやったネタで、もともと20分以上あるものを縮めて、8月から決勝までの間に15回くらいはやってきました。
配信の可能性は相当スゴイ
――空気階段のコントは、風変わりで社会からはみ出したようなキャラクターが登場することが多く、そのような人物に対して温かいまなざしが向けられているところが特徴でもある。21年の『キングオブコント』は彼らを筆頭に、同点準優勝の男性ブランコ、ザ・マミィといった上位のグループが、視聴者から「優しい」と評されるコントを展開していた。本人たちに「優しさ」や「温かさ」をコントに取り入れている意識はあるのか。
かたまり 「時代的に優しいものが求められている」と分析した人がそう言っているだけで、自分たちがそこを意識することはないですね。「僕らにしかできないネタを」とは常に考えてるけど。
もぐら 「おかしい人に対して愛がある」と言われることもありますけど、僕は世の中の全員が変人だと思っているところがあるんで。でも昔からお笑いって、一方的に誰かを疎外するようなネタって、実はなくないですか? 志村けんさんの「ひとみばあさん」だって、店に来たお客さんは困りながらも帰らないし、「変なおじさん」も、最後に警察に逮捕されるっていうオチじゃないですから。僕らはそういうネタを見て、勉強してきているので。もしかしたら、見る人の気持ちが変わってきた可能性はありますけどね。社会が変わったんじゃないかな。
――コント作りにこだわり、特に単独ライブに力を入れていることを公言している2人。2月に1万枚の配信チケットを売り上げた要因や充実感をこう語る。
かたまり 20年の『キングオブコント』で、3位になれたことが大きかったと思います。配信によって、単独ライブをよりたくさんの人に見てもらえたのは、本当にうれしかったですね。
もぐら 配信チケットは後から売れたので、口コミで薦めていただいたみなさんのおかげです。興行的に、こうやって配信でもお客さんにお金を落としてもらえると、芸人はコントのことだけを考えて食っていけるようになる。僕らもまだ10年目ですけど、3年目、4年目くらいの後輩に「こんな選択肢があるよ」と示せるようになれたら、相当いいなと思います。
かたまり 初めて単独ライブのDVDを出せたのも、めちゃくちゃうれしかった。
もぐら DVDは僕らからお願いして出させてもらいました。やっぱり、手に取れるパッケージメディアを出せるっていうのは特別ですよね。僕らが最後のパッケージ世代かもしれないですけど。
――2人の活躍ぶりは、『キングオブコント』や単独ライブだけに留まらない。10月には初冠番組『空気階段の空気観察』(テレビ朝日)がスタートしたほか、最近はCM起用も目立つ。ソロ活動に目を向けると、かたまりは『でっけぇ風呂場で待ってます』(21年)の脚本を手掛け、もぐらは『日本沈没―希望のひと―』(21年)など、ドラマ出演も話題に。
もぐら 冠番組は初めてなんで、僕らもスタッフさんも手探りで。ネタ作りも1年目、2年目はどうやったら伝わるんだろうと模索していたけど、その時のことを思い出しますね。だんだん伝え方も分かってくるはずなので、長い目で見てもらえたらと思います。
かたまり 冠番組は「いろんな空気を観察する」というコンセプトなんで、縛りがないというか、実は何でもできる番組なんです。1回1回全員が納得しながら、面白いものを作っていけたら。
もぐら 『povo』のCMはありがたかったね。
かたまり 超うれしかったです。ラッキーというか。お金ももらえるし(笑)。
もぐら ご褒美みたいなお仕事だなと。CMは非日常でしたね。
かたまり 『でっけぇ風呂場で待ってます』の脚本は、自分たちが普段は演じないものを書くことで、コンビの活動に還元できることも出てくるのかなと思いました。それが何かはまだ分からないけど、また脚本を書ける機会に恵まれたら、楽しく、やれる範囲で取り組んでいきたいです。
もぐら 『日本沈没』は恐縮です(笑)。ドラマの演技とコントの演技は別物ですから、難しいんですよ。やっぱり俳優さんは比べものにならないくらい、抜群にうまい。コントって「ここの演技は無視していいな」っていう部分があるんですけど、俳優さんはそんなわけにいかないですもんね。でも、コントの人のところにオファーいただけたということは、今までやってきたことの延長でもいいのかなとは思ってます。
「#ビジュ爆発」に困惑
――大きく飛躍したことで思わぬ反応も。これまでもTikTokではかたまりの“イケメン”や“照れカワ”画像が、「#ビジュ爆発」のハッシュタグ付きでファンから投稿されることがあったが、『キングオブコント』優勝後にはそれが一般ユーザーにまで広がり、かたまりが困惑する様子がラジオ『空気階段の踊り場』で放送された。
かたまり 本当に勘弁してほしい。ああいう取り上げられ方をすると、面白くないヤツみたいに見えるじゃないですか。TikTokをきっかけにコントを見てくれるようになったらいいんですけど、そうなる画は全く見えないし(笑)。
もぐら まあね。“ビジュ”が爆発して新規の方が来てくれたらうれしいし、どんな入り口からでも歓迎ですよ。でも、中高生の頃の僕があの動画を見たとしたら、空気階段のコントは見ないと思います(笑)。今、あれを本気でカッコいいと思っている人と、イジってる人がどれくらいの割合で存在するのかが気になりますね。
かたまり 実態がつかめないんですよ。未開の地なんで。
もぐら 我々も引き続き調査していきたいと思ってます。「#ビジュ爆発」勢がワタクシもぐらに危害を加えるようなことがあれば、全力でつぶしますけど(笑)。
――コントで日本一に輝き、自分たちのやりたいことをさらに実現していける可能性が高まった。22年はどんな年にしたいか。
かたまり 大好きなラジオに引き続き力を入れていきますし、また22年も単独ライブをやりたいと思ってます。21年よりも大きい規模で考えているので、それをいいものにしたいなと。1番の目標だった賞レースは優勝して卒業できたので、本当に楽しくやりたいですね。『キングオブコント』に向けては、正直、キリキリしていた部分もあったんで。
もぐら 今までそこに割いていた時間も、全部単独ライブに使えるので、没頭して作りたいです。
かたまり 『空気階段の空気観察』も、どんどん僕らの意見を取り入れてもらえるようなので、スタッフさんとすり合わせながら面白いものにしていければ。
もぐら スタッフさんたちも新鋭の方なので、僕らの世代でやっていきたいって感じですね。ずっと方向性が定まらない可能性もありますけど(笑)。
空気階段
鈴木もぐら(左)1987年5月13日生まれ、千葉県出身。水川かたまり(右)1990年7月22日生まれ、岡山県出身。3月31日まで、第5回単独公演『fart』全国ツアーを開催。配信チケットも発売中。吉本興業所属
(文/ライター 遠藤敏文、写真=中村嘉昭)
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