種雄牛の凍結精液が入った保管器。おいしい肉の「種」が保存されている=2021年12月、曽於市の鹿児島県肉用牛改良研究所
鹿児島市のスーパーをのぞくと、精肉売り場で客が買い物かごに入れるのはもっぱら交雑牛(和牛と乳牛の掛け合わせ)だ。100グラム当たり900円程度。同じ陳列棚の和牛より約3割安い。最上位のA5等級の肉となれば、庶民には高根の花である。
価格面に加え、健康志向も高まる。県内で牛肉卸業務に携わる男性(40)は「取引先から『もう少しサシの少ない肉はないのか』と求められるケースは年々増えている」と明かす。
コロナ禍が販売不振に追い打ちをかける。外食需要が減少、上客だったインバウンド(訪日客)も消えた。2020年度の和牛卸値は、ピーク時の16年度から1割以上も下落した。
■変わらぬ規格
1991年の牛肉輸入自由化を機に、和牛界は霜降り路線をひた走ってきた。A5等級の流通量はこの30年で3倍近くに増えた。A4も含めると、和牛肉の7割強を上物が占める。
消費者ニーズの高くない高級肉が市場にあふれる-。需給ギャップの最大要因は、サシの量が格付けを左右する「牛枝肉取引規格」にある。この業界規格は88年から変わらない。
格付けは見た目で決まり、卸値も連動するため、農家はこぞってA5の肉を作ろうとする。「同じA5でもサシが多く入っている方が高く取引されるので、サシの量に重きを置いた生産が進んでいった」。JA県経済連肉用牛課の東條史典次長(44)は指摘する。
サシの量ではなく、その質を重視する動きも広がりつつある。うま味成分であるオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸(MUFA)に着目。オレイン酸は含有量が多いほど脂肪の口溶けがよくなり、肉の風味も増すとされる。
「和牛のオリンピック」と呼ばれる全国和牛能力共進会でも10年前から審査基準に採用され、10月の鹿児島大会では配点が5倍に引き上げられる。ただ、格付けの規格を見直すまで流れは大きくなっていないのが現状だ。
■期待
サシの質を巡っては、曽於市にある県肉用牛改良研究所(肉改研)でも手探りが続く。
93年に開所した全国でも数少ない和牛の研究機関だ。これまでに生み出した種雄牛364頭の精液を凍結保存する。遺伝子解析などの先端技術を駆使し、運任せに近かった種雄牛作りもある程度計算できるようになった。
7年前からは県内2カ所の食肉処理場に協力を求め、県産牛肉のMUFA値を計測。既に1万数千頭のデータを集め、「おいしい肉」の元となる種雄牛の研究準備を進める。
育種改良研究室の西浩二室長(51)は「消費者に求められる牛を生み出す技術はそろっている」と力を込める。次代を担う牛作りに大きな期待がかかる。
=第1部「王国の礎」おわり
【翔べ和牛 王国の礎⑥】「おいしい肉」って? 「消費者が求める牛 生み出す技術そろっている」 霜降りの「先」へ続く手探り | 鹿児島のニュース - 南日本新聞
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