人口増加によるたんぱく質不足に対する回答として、にわかに注目を集める代替たんぱく質。2020年は「代替肉元年」とも言われるように、米ビヨンド・ミートや米インポッシブル・フーズ、日本からはネクストミーツなどが製品を続々と投入した。食品大手も開発を急ぐなど、さまざまなプレーヤーが「未来の巨大市場」を狙う。
現在、主に市場に流通する製品は植物由来のたんぱく質を“食肉”に似せて加工したものだ。この先に研究が進むのが、牛や豚などの動物の細胞から食肉を作る培養肉分野だ。インテグリカルチャー(東京都文京区)は安価に細胞を培養できる装置を武器に、技術の確立を目指す。
培養肉の作り方
培養肉は動物から採取した細胞を培養液の中で増やす。培養液はアミノ酸やビタミンなどを含んだ基礎培地と動物から取り出した血清成分、成長因子から構成される。中でも血清成分と成長因子は高額だ。
羽生雄毅最高経営責任者(CEO)は「よく使われるトランスフォーミング増殖因子ベータ(TFG-β)の価格は1グラム当たり81億円、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)なら1グラム当たり2億円ほどする」と話す。細胞の培養に血清成分と成長因子は不可欠だが、高額なままでは食品への応用は期待できない。
また、外部から成長因子を添付した細胞を食品として販売することは法規制の観点からも難しい。普及には、食品として妥当な価格で適切に提供できるシステムが欠かせない。インテグリカルチャーが開発した装置「カルネットシステム」は安価に細胞を培養できるシステムだ。
体内に似せた培養システム
カルネットシステムは、動物の細胞を培養する「プロダクトバイオリアクター」と、血清成分と成長因子を供給する「フィーダーバイオリアクター」で構成する。フィーダーバイオリアクターでは、肝臓細胞や膵臓(すいぞう)細胞といった臓器の細胞を使い、血清成分や成長因子を作ることでコストを低減できる。また、中身を変更することで、培養する細胞をカスタマイズできる。牛や豚などの培養だけでなく、エビなどの食品での応用も可能だ。
同社は「人体を模したシステム」と説明する。また、このシステムにすることで、外部から成長因子を添付せずにすむ。つまり、食品添加物の法規制に適合した形になる。
培養肉を大衆の技術へ
「培養肉はどこか1社の独占技術ではなく、大衆のものにしたい」。羽生CEOは培養肉の理想をこう話す。これを実現するため、同社が主体となりコンソーシアムを結成。ハウス食品グループ本社や日産化学、千代田化工建設など食品から化学、プラントメーカーまで幅広い領域の企業が参加した。羽生CEOは「システムは自社で提供するが、その他の培養液や最終製品などは他社の得意分野を持ち寄る形にしたい」と話す。
将来は、地域の特色を反映させた肉「デザイン・ミート」を作ることを視野に入れており「畜産を代替する存在ではなく、補完し合う存在だと訴求したい」と話す。
フォアグラの製造ライン構築
21年末からはカルネットシステムを使って作った培養フォアグラを一部レストランに供給する。22年度夏頃に、月産8キログラムの生産ラインを構築し、安定供給を目指す。同時に試食会の開催も検討する。将来的には月産320キログラムの設備を整える。他社との共同研究を目的に技術力を訴求する。
現在は100グラム当たり3万6000円と高額だが、大型量産設備への移行や培養液の大量生産によりスケールメリットを出す。23年には100キログラム当たり3000円、25年には300円で生産する計画だ。
ただ、培養肉にも課題は多い。現状の技術では、細胞を増やすことはできても筋肉などの組織を作ることは難しい。羽生CEOも「製品としては、ペースト状のものを固めたものが中心になる」と説明する。
筋肉組織を作るには、一つ一つの細胞を生物的に積み上げる必要がある。加えて、大きくなった細胞の細部に酸素などの栄養素を届ける血管の役割をする組織が必要になる。再生医療の分野でも同様の研究は進むが、人体と同様の性能を持つまでには至っていない。さらに、そのほかの食感を作るにはそれぞれ組織を作る必要がある。我々が想像するような「一枚肉」の培養には時間がかかりそうだ。
植物由来の代替肉で全ての需要を満たせる訳ではない。消費者が代替肉に「食品らしさを求めるため」(羽生CEO)だ。現在の植物由来の代替肉は特定の決まった調理法のみでしか食べられない。例えば、焼き肉用の代替肉をしゃぶしゃぶにはできないし、唐揚げにも調理できない。「消費者は必ず“肉らしさ”を求めるはず。おいしさと調理の自由さは不可欠だ」(同)。人間の手で“肉”を作る挑戦は続く。
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【ディープテックを追え】未来の食肉「培養肉」、スタートアップが技術確立目指す|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 - ニュースイッチ Newswitch
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