【レビュー】国芳のしなやかな機知 時代の空気感を写す 「没後160年記念 歌川国芳」 太田記念美術館
「没後160年記念 歌川国芳」 |
---|
会場:太田記念美術館 |
会期:2021年9月4日(土)~10月24日(日) PARTⅠ 9月4日(土)~9月26日(日) PARTⅡ 10月1日(金)~10月24日(日) |
アクセス:東京都渋谷区神宮前、JR山手線原宿駅から徒歩5分、 東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅から徒歩3分 |
入館料:一般1000円、高校生・大学生700円、中学生無料ほか |
歌川国芳(1797~1861)と大南北は似ている、と時々思う。
大南北とは歌舞伎作者の四世鶴屋南北(1755~1829)。あの「東海道四谷怪談」を書いた人だ。奇想天外な着想、大胆な物語展開、毒のある笑い……。大南北が活躍したのは文化文政期(1804~1830)、国芳は天保(1830~1844)期から後と、少しタイムラグはあるが、その作品の手触りには共通するものがある。
多分それは「時代の空気」というものなのだろう。文化文政期は江戸文化の爛熟期。経済活動が活発になり、力を持った町人たちが自分たちのセンスで作り上げた文化が花開いた。ダイナミックで躍動的で華やか。大南北はその「空気感」を「生世話」で表現した。リアルに庶民の生活を描写した「江戸の現代劇」である。こちら、国芳も世相を反映した画業を多く残している。当時、世界でも有数の大都市だった江戸。その街のにおいが、時代が前後する二人の作品から強く感じられるのである。
没後160年を記念して開催される太田記念美術館の国芳展。9月の「PARTⅠ」は、そういう「時代の空気感」を重視したセレクションになっている。国芳が人気者になっていった天保期は、悪名高き「天保の改革」でも知られる通り、庶民生活や娯楽に対してお上から様々な規制がかけられた時代だった。いわく「ぜいたく品は身に着けるな」「華美な祭礼などは行うな」――。画業に対しても、「遊女や役者を浮世絵の題材にするな」などの命令が出されていた。とはいえ、規制がかけられるとそれを何とかすり抜けながら作品を作ろうというのが、クリエイターというもの。遊郭の様子を雀の姿で描いてみたり、ネコやカエルの姿で役者を描いてみたり。国芳と言えばダイナミックで躍動感にあふれる「豪」のイメージが強いのだが、「PARTⅠ」の展示では、この絵師の機知とインテリジェンス、「柔」の側面が強調されているといえるかもしれない。
ちょっとだけ大南北と違うのは、国芳のユーモアは「どこかカワイイ」ということだろうか。トウモロコシの役者が獅子を演じて頭を振っている《道外とうもろこし 石橋の所作事》やネコたちが集まって一つの文字を構成する《猫の当字 かつを》……、ネコ好きで知られる国芳、あのなんだかマイペースでのんきな生き物に、影響を受けているところがあるのだろうか。
ジャーナリスティックでユーモラス、ちょっとカワイイ「PARTⅠ」の展示は、コンプライアンスという言葉に縛られがちになっている21世紀のクリエイターたちにも刺激を与えそうなポイントが満載だ。一転、10月の「PARTⅡ」では、武者絵などがフィーチャーされ、豪壮で怪奇趣味にあふれる「いつもの」国芳が中心になるという。柔と剛、後世に大きな影響を与えた浮世絵師を多面的にとらえた今回の展示。「PARTⅠ」と「PARTⅡ」はできればセットで見るべきだと思う。
(事業局専門委員 田中聡)
【レビュー】国芳のしなやかな機知 時代の空気感を写す 「没後160年記念 歌川国芳」 太田記念美術館 - 読売新聞社
Read More
No comments:
Post a Comment