2020年夏、沖縄でひそかに放たれた「クリーンヒット」がある。沖縄市観光物産振興協会が発売した「コザの空気感(缶)」だ。読んで字のごとく缶詰の中身はただの「空気」だが、SNSと地域の強みを生かし、想像をかき立てるストーリーに仕立てた。用意した70個は1週間で完売。21年バージョンは地域社会と連携し、より濃密な商品を開発する予定だ。 【写真】「コザの空気感」には何種類ものオリジナル缶バッジを作ってランダムに入れ、「くじ引き気分」を演出 「空気を売ろうか」。そんな企画が持ち上がったのは20年6月のことだった。発案者は沖縄市観光物産振興協会事務局長の山田一誠氏。リクルート出身で17年に就任した、地域では有名なアイデアマンだ。 20年4月以降、新型コロナウイルスの感染拡大で沖縄県への観光客の足はピタリと止まっていた。沖縄市も同年5月、毎年8月に30万人近くが訪れる沖縄全島エイサーまつりを、初開催の1956年以来、初めて中止すると決定。「現地に来てもらえないなら、せめて熱気を伝えたい」。そんな思いだったという。 ただ、実現するのは簡単ではない。山田氏からボールを受けた物産担当の花城康貴氏は苦笑いをしながらも、頭を抱えた。なんとか商品化の方法を探る中、最近、空気を販売した例を見つけた。2019年4月、平成から令和に元号が変わることにちなみ、「平成(へなり)」という地区がある岐阜県関市の空気を缶詰にしたケースだ。 とはいえ、だ。「『平成』というのは圧倒的なパワーワード。有名なビーチも豊かな自然もない沖縄市で何ができるか」。幸い、日本最大の米軍基地である嘉手納基地の門前町として栄えた沖縄市には「日本の中の米国」を好むコアなファンがいる。「ネーミングはかつての市の名称で、ファンになじみのある『コザ』のほうがいい」。徐々にだが、構想は固まってきた。
ビニール袋で空気を集める
●ビニール袋で空気を集める 次のハードルは、いかにして付加価値を付けるか。単に、面白グッズとして売るつもりはない。実際に空気感を伝え、コロナが収束した折にはぜひ現地を訪れたいと思ってもらうことを念頭に置いたプロジェクトだから、購入者の満足は欠かせない。 そこからは地道な作業を続けた。缶のパッケージデザインには、米軍が占領時代に認証店舗に張っていた「Aサイン」マークを使用。シリアルナンバーを記載することで値打ちを高めようとした。さらに、何種類ものオリジナル缶バッジを作ってランダムに入れ、どれが当たるか分からない「くじ引き気分」も演出した。 「空気」の価値化では、新型コロナの流行後のPR向けに強化していたSNSをフル活用した。オリジナルキャラクターがビニール袋を手にして中心地の「ゲート通り」を走り、実際に空気を集めている動画を流したのだ(動画)。室内の空気が入らないよう、ベランダで行った封入作業には丸3日をかけた。 販売価格は1つ税込み800円。缶詰を作る機械や缶の材料などはネットで購入し、1つ当たりのコストは650円ほどかかったという。40個入りの缶のセットを2つ買い、販売数は70としたが、全部売れても利益はほぼ出ない。 ただ、目的はあくまでも地域の周知活動であり、将来の集客へとつなげることにある。プロジェクトの面白さに地元メディアは反応し、8月下旬に発売すると振興協会のオンラインショップや窓口にアクセスが集中した。関西地区などからも問い合わせがあり、わずか1週間で完売した。
沖縄・コザの空気感を売る、「面白商品」が奏でるエイサーのリズム(日経ビジネス) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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